もうなかないよ、クリズラ もうなかないよ、クリズラ
作: ゼバスティアン・ロート 訳: 平野 卿子  出版社: 冨山房 冨山房の特集ページがあります!
読み手の年齢を選ばない子どもから大人まで、それぞれの感性で理解してうけとめる事のできる「みんなの本」です。
小学生からの【読みもの】もあります。楽しく読書習慣を。 絵本ナビの「絵本クラブ」がお手伝いします。>>>
絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  40作をこえる児童文学が「絵」の中に! ボローニャ・ラガツィ賞受賞作『本の子』翻訳者 柴田元幸さんインタビュー

モンスターのページがあったから引き受けました。


柴田:僕が翻訳を引き受けた最大の理由は、モンスターのページがあったからです。ここに出てくる『フランケンシュタイン』『ドラキュラ』はモンスター物語の古典。とくに『フランケンシュタイン』は名作中の名作です。児童文学のベストでなく、英文学の小説ベスト10を作るとしても、チャールズ・ディケンズやジョージ・エリオット、トーマス・ハーディとかそういう人たちと並んで入るようなイギリス文学の傑作です。僕が読者なら、ここはいちばんきちんと訳してほしい。それなら自分で訳そうと(笑)。

───「怪物」を形作る名作『フランケンシュタイン』を柴田元幸さんが翻訳! 魅力的な組み合わせですが、このページ上ではほとんど読めないのでは……(笑)。

柴田:一部しか読めなくても、それはそれで、まあいいんじゃないかと(笑)。『フランケンシュタイン』にしても、僕が永遠の名作だと思う『ガリヴァー旅行記』にしても、すでにいい訳はあるから、自分ですべて新訳にすることはあまり意味がないし、できないけれど、こういう機会に一部でも訳すことができるのは楽しいですよね。

───たしかに、柴田元幸さんの訳でちょっとずつ名作を読むことができると思うと、わくわくします! 実際はこの絵本をどのように訳していかれたのですか?

柴田:原作者の彼らが原典として使ったテキストをもらって、それを訳していきました。原書の「絵」を見ながら訳したわけじゃないですよ(笑)。「絵」の中でごちゃごちゃになってる部分や、切れている部分も含めて訳して、それをまた日本語版を作るときに、デザイナーの方に適当に切ってもらったりしています。
日本語の文字でこういう「絵」を作るとどうなるかと思いましたが、むしろ見ると日本語のほうがうまくいっていると思います。

───英語よりうまくいっている?

柴田:そうですね。密集した細密文字の「絵」からどんな言葉を浮かび上がらせるか。たとえばモンスターの角の部分や、口、体毛のような周囲の飛び出したところにどのフレーズをはめるかは、原文でも意識されているし、日本語版になったときに編集者の吉田さんやデザイナーの方がいちばん工夫されたところだと思います。
「忌み嫌っている」「嫌悪」「痛ましい」といった暗ーい言葉が並んでいるわけだけど、それを見たとき目に飛び込んでくるインパクトは、漢字のほうが強いんじゃないでしょうか。

吉田:出版前に周囲では「英文が絵になっているからかっこいいんじゃない?」という意見もありました。実際、作者のお二人のこだわりも強いし、最初は絵の端っこのほうだけ日本語に変えてもいいですよ、と言われたのです。

───「端っこ」とは?

吉田:たとえばこのページであれば、英文で作られている怪物の本体はそのままで、角や、胴体周囲から飛び出しているごく一部分だけ日本語に変えるという意味です。
ここではサム・ウィンストンさんとオリヴァー・ジェファーズさんが同じ怪物に二人で手を加えていくことでひとつの「絵」を作り上げています。他の言語版を作る際には「絵」の部分は極力触らないようにしてほしいということで、端っこの飛び出している部分だけ日本語訳すればいいんじゃないかということだったんですね。
でもドイツ語やフランス語ならばともかく、日本語と英語の文字の形はぜんぜんちがいますし、それじゃあ美しい絵にならないから、なんとかもっと日本語に入れ替えさせてほしい、と、お願いをして、最終的にはまかせてくださることになりました。


口の部分の「天涯孤独」の漢字が目に飛び込んできます。「二行に分かれているのがいいね。一行だと見え透いてしまうから」と柴田さん。


原書では「I am alone / children of the night」。

柴田:この怪物の「絵」はとにかくよくできていますよね。この「手」の部分が漢字になっているのがまたいいよねえ。とにかく僕としては、最初のいかだのページと、モンスターのページが圧巻だと思います。

───わ、手の爪まで文字になっているんですね。すごい…! 右の塔の上から、下に伸びているテキストは『ラプンツェル』ですね。

柴田:そうですね。塔から下ろされた髪の毛が、文字で描かれています。

───『ラプンツェル』が好きなうちの娘たちに「この部分も、お話の文章になっているんだよ」と話すと、「読んで!」と言われたので読んであげました。二人とも興味津々でした。
『ふしぎの国のアリス』は、柴田さんが訳すとこんなアリスになるんだなと、セリフからキャラクターを想像するのが楽しかったです。


「彼女の長い髪はそれはそれは見事で、金を紡いだかのように細く、魔女の声が聞こえると編んだ髪を解いて窓の鉤に巻きつけ、すると髪はするする二十エル降りていって、魔女はそれを伝ってのぼって来るのだった。」(『ラプンツェル』)


『ふしぎの国のアリス』のテキストで作られた道の場面。

柴田:『ふしぎの国のアリス』で作られた道の部分には、原作のスピリットが生きていますね。でも本当は、アリスがだんだん落ちていく感じを表現するなら、日本語だったら「下へ、下へ、下へ」の部分を縦にしたいですよねえ。『ふしぎの国のアリス』は雑誌「ユリイカ」(2015年3月刊行号)の企画で第1章の新訳を作ったのが役立っています。

洞窟のページは原書を見たとき、日本語をここまで小さい文字にできるのかなと思いましたけど、うまくできましたね。濃い文字と薄い文字もあって、原書と見比べても違和感がない。とにかくこの本、訳したあとのプロダクションがたいへんな絵本ですよ。編集者やデザイナーの方が苦労されたと思います。


原書の洞窟。


日本語版の洞窟。

───柴田さんご自身が子どもの頃に読んでいた児童文学作品は、『本の子』にありましたか?

柴田:僕は、子どもの頃は本なんか読んでいませんから。むしろ大人になって、それも40代、50代になってから読んだ作品が多いです。
オズの魔法使い』は数年前に訳したときに読んで「すばらしい!」と思いました。『本の子』には入っていないけれど『クマのプーさん』もすばらしいと思う。もちろん『ピノッキオの冒険』も大好き。だけど『ナルニア国ものがたり』とか、『たのしい川辺』とかは全然だめ。キリスト教の秩序とか、イギリスの階級社会を保持しようとしている感じの話は苦手ですね。

───そうなんですか(笑)。

柴田:絵本のルールを壊す本が好きなのと同じように、物語の中でも社会制度に反抗してほしいんですよね。制度をくりかえし確認するんじゃなくて。


『ピーターパンとウェンディ』によって作られた山。「一緒に/空想の山を/旅しよう」

出版社おすすめ



『ダイズマンとコメリーヌ』 <br>中川ひろたかさんインタビュー
【3歳】絵本ギフトセット

柴田元幸(しばたもとゆき)

  • 1954年、東京生まれ。アメリカ文学研究者。2005年『アメリカン・ナルシス』(東京大学出版会)でサントリー学芸賞受賞。ほかの著書に『生半可な學者』(白水Uブックス、講談社エッセイ賞受賞)、『翻訳夜話』(村上春樹氏と共著)などがある。2010年、ピンチョン『メイスン&ディクスン(上・下)』(新潮社)で日本翻訳文化賞受賞。絵本の翻訳にエドワード・ゴーリー『うろんな客』など多数。

作品紹介

本の子
本の子の試し読みができます!
作:オリヴァー・ジェファーズ サム・ウィンストン
訳:柴田 元幸
出版社:ポプラ社
全ページためしよみ
年齢別絵本セット