1歳のえほん百科 1歳のえほん百科 1歳のえほん百科の試し読みができます!
監修: 榊原洋一  出版社: 講談社 講談社の特集ページがあります!
シリーズ累計220万部の「年齢別えほん百科」を全面改訂版。1歳児の発育にぴったり!
0歳の子と読みたい絵本ベストセレクションよりこの3冊をご紹介(1)
絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  40作をこえる児童文学が「絵」の中に! ボローニャ・ラガツィ賞受賞作『本の子』翻訳者 柴田元幸さんインタビュー

「なぜなら、想像力は自由だから。」

───モンスターのページの他に、翻訳していてお好きだったところや、大変だったところはありますか。

柴田:大変だったのは、あまりにも断片的だったところですね。ほんの数語しかなかったり、誰がしゃべっているセリフなのか短すぎてなかなかわからないのもあったりして。どこだよ、これ!?って(笑)。


短い断片的なフレーズが、球体の周囲を巡る場面。

柴田:『本の子』は絵本だけど、読者対象は子どもだけではない。だから翻訳するときに、ボキャブラリーを子どもに限定しなくていいのが僕にとってはすごくラクなんです。
たとえば『ガリヴァー旅行記』は18世紀に書かれた読み物ですから、原文の語彙や言い回しも古めかしい。だから訳すときに僕も意識して他の作品より古い言い回しを使ったり、漢字を多用したりしています。まあ、そういう訳し分けは、ほとんど訳者の自己満足なんだけどね(笑)。

───そんなことないです! 柴田さんの訳を読んで、『ガリヴァー旅行記』を読み直してみたくなりました。あとは翻訳に迷ったところはありませんでしたか?

柴田:あえて言うなら、最後のところですね。原文は「For IMAgination is FREE」と書いてあります。FREEの意味には、「自由」だけでなく「お金がかからない」というニュアンスもありますから、そこを入れたかったけど、「想像力はただだから」とするわけにもいかないし。結局「なぜなら、想像力は自由だから」と訳しました。ここだけですね、原文のニュアンスの広さを生かしきれないなと思ったのは。あと、英語だと、手描きの文字で大文字・小文字をランダムに使える(IMAgination)のがうらやましいですね。


手描きの英文字で「For IMAgination is FREE」。

───あの、実は『本の子』の冒頭で……本文の前にこんな一文があってドキッとしました。「フルビネクは一九四五年三月初旬に死んだ。彼は解放されたが、救済はされなかった。彼に関しては何も残っていない。彼の存在を証言するのは私のこの文章だけである。」これは、プリーモ・レーヴィ(*)の文章の引用ですよね。

(*プリーモ・レーヴィ…イタリアの化学者、作家。アウシュヴィッツ強制収容所からの生還者)

柴田:レーヴィのことを知らなくても、アウシュヴィッツのことだということは想像がつきますよね。『本の子』はいわば、究極の「自由でない」状態の引用文ではじまり、最後は「想像力は自由だから」で終わっている。

吉田:補足しますと、フルビネクは小さな子どもです。第二次世界大戦中のユダヤ人強制収容所のなかで生まれて、言語を獲得できるような世話をされなかったようで、話せず、ただフルビネクと呼ばれました。解放されてまもなく、言葉を話せないまま亡くなったそうです。

柴田:「わたしが/どこに住んでるか/忘れてしまった/人も/いるけど」という本書の中ほどの場面で、ビジネスマンが数字しか見ていないような顔で新聞を読んでいるページがあります。ビジネスや数字だけで成り立っている世界には、物語が入り込む余地がない。そういう世界に埋もれていっている人もいます。
想像力をつぶしてしまうようなものは世の中にははびこっていて、そういったことの極限に、たぶん、アウシュヴィッツもある。

───「彼の存在を証言するのは私のこの文章だけである」という一文に、「文字の中にしか存在しない」という虚無感が閉じ込められているような気がして、胸をつかれる思いでした。
『本の子』の本文には、男の子がこの表紙に描かれた本にそっくりの、赤い本をかかえている姿が描かれます。ふと、同じく赤い布張りで装丁されたミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を思い出しました。物語の中に迷い込んで、自分が消えてしまいそうに感じたときの、ぞくっとするような感触がよみがえってきました。

柴田:なるほどね。「ビジネスの中に埋没するのがこわい」というより「この本に埋没するのがこわい気がする」というほうが、『本の子』の読み方としておもしろいなと、今おっしゃったことを聞いていて思いました。
そう考えると、物語の世界からやってきた女の子が、現実世界にいる男の子を、こわいところに引きずりこんでいくようにもたしかに見えるね(笑)。

───青い色の女の子ってあまり見かけないので、よけいにこの世のものではない感じがします。本の世界の妖精のような存在なのでしょうか(笑)。

柴田:そうするとこの女の子と男の子の役割を逆にするっていうことはできないだろうなあ。「あなたを連れていってあげる」と想像力のほうへ引っ張っていくのは、やっぱり女の子でしょうね。男の子じゃちょっと納得できない(笑)。

───『本の子』の冒頭、プリーモ・レーヴィの一文の上には「宇宙は原子でではなく、物語で出来ている」とあります。これは著者二人からのメッセージだと感じます。
「物語」について、柴田さんはどう思われますか? 「物語」が好きですか、嫌いですか。

柴田:嫌いだったら小説なんか訳してないですよ(笑)。何でもそうだけれど、「物語」もポジティブな面とネガティブな面と両方ありますよね。何十年も前に蓮實重彦(蓮の左側は二点シンニョウ)が『小説から遠く離れて』(河出文庫)を書いて、現代日本の小説家たちが物語、つまり話のあらすじに重きを置きすぎて、本来あらすじからはみ出したところを書くのが小説なのに、それができていないんじゃないかと言いました。それはもちろんそのとおりなんだけど、小説を訳していると、小説の中でいちばんおもしろいのはやはり「物語」だな、と思うこともあります。

たとえば、『ドン・キホーテ』というのは物語を読みすぎて頭がおかしくなった男の話で、著者のセルバンテスは男が夢中になっている物語を批判しているんだけれども、そのドン・キホーテの人生を描いた物語がまたすごくおもしろい。物語を批判しながら、その男の人生を描いた物語が、あたらしい物語を生み出していくという矛盾ですよね。

本を読んだり映画を見たりする人にとって、「物語」がその人を解放してくれるものなのか、それとも知っているつもりのものをもう一度確かめるのに役立つだけなのか、その違いだと思います。とまあ、いちおう英米文学者だからややこしいことを言うわけですけども(笑)。この本では素直に、「わたしたちは物語で出来ている」「物語は自由だ!」というところからはじめればいいと思います。


名作の題名で埋め尽くされた見返し。


読んだことがある物語、みなさんはどれくらいありますか?

───最初は「絵」のインパクトに釘付けになりましたが、お話をうかがっていくうちに『本の子』に込められたメッセージを感じ、発見がいっぱいありました。
最後に、絵本ナビの読者にむけてメッセージをお願いします。

柴田:文字どおりたくさん本が詰まっている『本の子』ですから、まずは楽しんでください。
あとはやっぱり、この一冊で止まらないで、ここからまたいろんな本に手がのびるっていうふうになるといいですよね。

吉田:物語を楽しく読んだことのある人には、手にとってもらえるとワクワクしてもらえるんじゃないかなと思います。単純に絵を見て「わっ」と驚いていただける本でもあると思うので、ぜひめくってみてください。本の中には、本の外側とはまたちがうものが広がっているはずです。

柴田:コンピューターグラフィックが得意な人は、自分でも文字で絵を描きたくなるんじゃないかな。それでまた一冊の本が生まれたりしたらおもしろそうだよね。

───今日はたくさんお話を聞かせていただき、ありがとうございました!

インタビュー・文: 大和田佳世(絵本ナビ ライター)
撮影: 所靖子

出版社おすすめ

  • おでんしゃ
    おでんしゃの試し読みができます!
    おでんしゃ
    作:塚本 やすし 出版社:集英社 集英社の特集ページがあります!
    コンビニのおでんを見て思いついた楽しい知育絵本。おでんしゃ、出発しまーす!


『はやくちことばで おでんもおんせん』イベントレポート
びっくり楽しい!しかけ絵本の世界

柴田元幸(しばたもとゆき)

  • 1954年、東京生まれ。アメリカ文学研究者。2005年『アメリカン・ナルシス』(東京大学出版会)でサントリー学芸賞受賞。ほかの著書に『生半可な學者』(白水Uブックス、講談社エッセイ賞受賞)、『翻訳夜話』(村上春樹氏と共著)などがある。2010年、ピンチョン『メイスン&ディクスン(上・下)』(新潮社)で日本翻訳文化賞受賞。絵本の翻訳にエドワード・ゴーリー『うろんな客』など多数。

作品紹介

本の子
本の子の試し読みができます!
作:オリヴァー・ジェファーズ サム・ウィンストン
訳:柴田 元幸
出版社:ポプラ社
全ページためしよみ
年齢別絵本セット