暑い季節に、さわやかな涼しさを体感できるような作品をご紹介します。『夏の日』『ゴムの木とクジラ』(銀の鈴社)。この2冊を執筆した、白鳥博康さんは、大学の研究員から作家になられた、珍しい経歴の持ち主。絵を描かれたもとやままさこさんは児童書「言葉屋」シリーズ(朝日学生新聞社)などで活躍されているイラストレーターさんです。今回は、作家の白鳥博康さんに、お話を伺いました。
- 夏の日 8 petits poemes
- 著者:白鳥 博康
画家:もとやま まさこ - 出版社:銀の鈴社
みずみずしい絵に、かさなる言葉たち。 幻想的にえがかれる、世界のきれはし。 大雪の朝、カフェで食べたサンドイッチが思い出させる光景とは。(「sandwich」) 民族衣裳の双子の女の子は、私をどこにみちびくのか。(「衣裳祭」) 大昔の劇場で出会った女の人との小さな旅。(「ラトラップ・クー」) 地中海の光と風をまとった8つの小さな詩物語は、 こまやかな感性と、さりげないエスプリのつまった、まさに大人の絵本。
───とてもさわやかな表紙が目を引く『夏の日』と『ゴムの木とクジラ』。こちらの作品はどのような経緯で出版が決まったのでしょうか?
『夏の日』は2014年くらいから作り始めた小冊子が元になっています。実は私はそれまで、服飾美学の研究をしていたのですが、2011年にフランスへ遊学したことがきっかけで、作品を書きはじめました。
───その後、小冊子としてまとめたのが『夏の日』だったのですか?
はい。『夏の日』には8つの作品が収められているのですが、小冊子では1篇1冊として制作していました。8冊分書き上げたとき、「どこか本として出版してくださるところはないか……」と、思いました。調べてみると、銀の鈴社さんが絵本や詩などアート分野につよいことを知り、コンタクトをとりました。そうしたら、「1冊にまとめてみませんか?」とご連絡をいただき最初の作品『夏の日』が出版されることになりました。
───小冊子を制作されていたときから、イラストはもとやままさこさんが描かれているんですね。
そうです。偶然でしたが、もとやまさんの作品を何度か目にする機会がありました。その作品がとても素敵だったので、私の作品にぜひ絵を付けてほしいと思い、お願いしました。
───もとやまさんは、今、「言葉屋」シリーズで大変人気のイラストレーターさんですよね。
ちょうど、最初の小冊子の挿絵をお願いした時期が、「言葉屋」の1冊目の製作時期と同じくらいだったそうなんです。でも忙しい仕事の合間を縫って、とても素敵な絵を描いてくださり、今でも感謝しています。
───小冊子を拝見すると、中はほとんど出版されている形と同じなんですね。絵がふんだんに載っていて、大人のための絵本のような雰囲気を感じました。
以前から、短い作品を積み重ねていってひとつの世界を作り上げることをしてみたいと思っていたので、長編小説よりも、短編小説と詩の境目のような表現を目指したんです。そうしていく中で、国を超えて多くの方に楽しんでもらうには、ビジュアルと組み合わせて表現する方法が大事なのではないか……と。自分で撮影した写真を使った表現なども考えたのですが、なかなかしっくりこなくて……。あるとき、ふと、絵本のような絵と文章の表現があっているのではと思い、言葉と絵が共存できる方法を思いつきました。
───もとやまさんのイラストのどんな所に惹かれたのですか?
とにかく線が魅力的です。非常に惹かれました。私の書く表現の世界は、ある意味とても不親切なところがあり、理解しづらい部分があります。ですから、もとやまさんの絵を手掛かりに、作品世界をのぞいていただけたらと思います。
───もとやまさんにイラストをお願いするときは、どのように依頼されるのですか?
作品によってまちまちですが、毎回作中の言葉に関する注釈をつくりお渡ししています。構図などを細かく指定することもありあますし、もとやまさんにお任せすることもあります。私の想像していなかったアイディアを見せていただけることもあって、毎回、とても楽しく感じています。
───白鳥さんの中で、一番驚きのあった作品はどれでしたか?
そうですね……。一番を挙げることは難しいですが、最近の驚きでいうと、「ゴムの木とクジラ」の一場面、クジラが首飾りになった場面の絵ですね。私がもとやまさんにお伝えしたのは、「これはクジラが小さくなっているのではなくて、女の子の心が大きくなっているんです」ということでした。そうしたら、この絵を描いてくださったんです。構図も含めて、とてもすばらしく仕上がりました。
───『ゴムの木とクジラ』は2016年に出版された2作目の作品ですね。
はい。1冊目を作った後、ほどなくして、銀の鈴社さんから「2冊目を書きませんか?」とご提案いただいました。まさか2冊目を出してもらえるとは思っていなかったので、とても嬉しかったですね。絵も引き続きもとやまさんにお願いすることができて、昨年夏に発売されました。
───どの作品も登場する人物、建物などに、異国情緒を感じさせるような独特な世界観を感じました。フランス遊学など、海外への旅行などから、発想が生まれるのでしょうか?
実は、作品を書くのは旅先などではなく、大体今日お話ししている喫茶店で書いているもので……(笑)。ただ、旅は好きですね。いろいろな国へ行って、見てきたもの、感じたもの、その国の言葉や空気などからインスピレーションを受け取って、作品に生かすこともあります。
───「衣裳祭」や「ラトラップ・クー」など、タイトルもとても気になりますが、タイトルから文章を考えるのですか? それとも、文章が先に生まれるのでしょうか?
文章が先のことが多いです。学生時代は、表現者の発想の原点にとても興味があり、詩人や作家の方に、聞いてみたことがありました。すると、多くの方は「作品や言葉が降りてくる」と言うんです。それを聞いたとき、すぐには信じられませんでした。でも、今、表現者として感じているのは、まさに「降りてくる」という表現がピッタリだということです。
───どんなときに作品が降りてくるんですか?
例えば、犬の散歩の途中など、普段の生活をしている中で、降りてくることが多いですね。降りてきた言葉は、しばらく頭の中で寝かせておくんです。そこで忘れてしまうようなら、そのくらいの内容なんだろうとあきらめます。どうしても書いてみたいと思う言葉はちゃんと残るので、それを作品にするんです。そういう感覚は、昔の自分には、わからなかった感覚でした。
───良い作品が来るよう、呼び寄せるための行動はしないのですか?
ジャンルを問わず、たくさんの表現、映画・音楽・演劇・写真にふれたり本を読んだりしています。でも、結局どうやってやってくるかは分からないです。でも、常に「来い来い来い」とは思っていますよ(笑)。