絵本作家たかいよしかずさんは“ハッピークリエーター”として子どもたちを笑顔にする作品をたくさん生み出しています。「くろくまくん」シリーズ(くもん出版)や「怪談レストラン」シリーズ(童心社)の挿絵・デザイン、チャートやワークシートを使用した絵本『ともだちのつくりかた』(大日本図書)など、作品への関わり方や表現へのアプローチが多岐に渡る、多才な作家さんです。
そんなたかいさんが長年携わってきたミキハウスのしかけ絵本に、このたび、絵本を上下に振ると、束の部分にあるギミックから不思議な音が出る参加型絵本「フリフリえほん」が加わりました! 『フリフリえほん まほうが つかえたら』『フリフリえほん まほうで たすけよう』(共に、三起商行[ミキハウス])この2冊のストーリーを考えて絵を描いたのがたかいよしかずさんです。一体どのように制作されたのか、ミキハウスの編集者・清水剛さんにも同席いただき、「フリフリえほん」制作の舞台裏を伺いました。
●フリフリしたらお話が進んでいく、参加型絵本
───『フリフリえほん まほうが つかえたら』『フリフリえほん まほうで たすけよう』は、上下に振ると、束の部分にあるギミックから不思議な音が出る参加型絵本。それぞれフガフガ・プピプピッと不思議な音がするので、ひたすらフリフリして遊びたくなっちゃいます(笑)。
たかい:音が出るのを楽しむだけでもいいけど、2冊ともフリフリするたびにお話が進んでいく、しかけ絵本なんですよ。
───それぞれストーリーがあって、フリフリするたびに場面が展開していくんですね。2冊とも「魔法」がキーワードになっていますが、魔法がつかえたらと想像するのは楽しいですよね。
わが家の2歳・6歳は『フリフリえほん まほうが つかえたら』の中の、おもちゃ屋さんのページがお気に入りでした。「カエルさんがいるね」「ブーブー(車)だね」「あっ、これはワニさんかな?」と指で指して楽しみました。
たかい:ここのページのカエルさんは、実は、僕が前に立体作品として作った、「カエルのスイカ売り」のカエルが基になっているんですよ。本当はカエルさんの前にスイカが並んでいるはずなんです。この絵本の中では売り切れみたいだけど(笑)。
───そうだったんですか! ぜんまいが付いたフクロウや、車が付いたワニのきょろっとした目や、おもちゃの1つ1つに表情があって可愛いなと思います。描いていて楽しかったページはありますか?
たかい:ぜんぶ楽しかったです。絵本は、親子や友だち同士のコミュニケーションのきっかけになるものだと思うので、僕もつい「こんな絵も描いたら見つけてくれるかな」「話が盛り上がるかな」とあれこれ描き込みすぎてしまうんですよ。そうならないように、なるべく気をつけました。
───一方、『フリフリえほん まほうで たすけよう』は、フリフリするといろんなピンチが解決! 迷子のママが見つかったり、道に迷った人、大きくて重そうな荷物をもつ人、車にぶつかりそうな男の子、ビルの3階の火事で逃げおくれた人が助かったり……。いろんな場面で困っている人が、フリフリすることで、次のページでは笑顔になりますね。
たかい:道で、迷っていそうな外国の方を見かけると「声をかけたいな」と思う半面、英語に自信がなくて話しかけられなかったりしますよね。そんなときに「どこに行きたいですか?」と、ちゃんと話しかけられたらいいんですけどねえ。
───この絵本の中では、どんな人助けでもできてしまいそう(笑)。
それにしても、今まであまり見たことがないギミックの絵本ですよね。たかいさんがこの2冊を作ることになったきっかけを教えてくださいますか?
たかい:ミキハウスの清水さんとは長年一緒にお仕事させていただいているのですが、「面白いものを見つけました」と連絡をもらって、海外の絵本をいくつか見せてもらったのが最初のきっかけです。それぞれ動物の鳴き声の音がするという主旨の絵本で、このタイプのギミックが使われていました。
───束部分からそれぞれ動物の鳴き声がするという設定のギミックだったんですね。どんな動物ですか?
清水:アザラシ、キツネ、ネズミ、ネコです。僕は、振るだけで音が出るシンプルなギミックを面白いと感じました。ミキハウスでは、色々な音が鳴る凝った作りのしかけ絵本をたくさん出版し、ギフトなどに喜ばれて実績を重ねてきましたが、ちょっぴり視点を変えて、こういう素朴なギミックを使った絵本も作ってみたいと思いました。
───ギミックとの出会いが出発点だったのですね。清水さんが最初に企画内容を思いついて、たかいさんに制作をお願いしたということになりますか?
清水:たかいさんに「この音が出るギミックを使って、何かできないでしょうか?」とご相談しました。動物の鳴き声というだけではストーリーがないし、このギミックにふさわしい新しいストーリーを考えていただけないかと。この十数年間、いろんな作品作りでご一緒して、たかいよしかずさんには絶対の信頼がありました。
ギミックを提案したのは僕ですが、実際の内容を考えてくださったのは、たかいさんです。
───たかいさんは、清水さんからご相談があったとき、どのように思いましたか?
たかい:このしかけに合わせて、ストーリーになる内容を考えるということですよね……。「なかなか手強いな」というのが正直なところでした。「動物の鳴き声以外に、何かできることがあるかなあ?」とちょっと悩みました(笑)。 何か出来事があるたびに振るのか、ずーっとお話を読んでいって最後に振るのか……。いろいろなパターンを考えました。
───たかいさんも最初は悩んだのですね。フリフリするたびに魔法がかかるという設定は、どういう発想からだったのでしょうか。
たかい:僕にとって、まずこの2冊がミキハウスさんが作る絵本である、という大前提からスタートしました。ミキハウスはアパレルとして良質な物を作っているメーカーであると同時に、社会へ色々な貢献をしているいい会社だなと常日頃から思っていて、絵本制作を通して人や社会への「やさしい気持ち」を伝えていけたらいいなあと思ったんです。そういうふうにずーっと考えていたら……「魔法」にたどり着いたんですよ。
───そんな視点から「魔法」にたどり着いたとは驚きです! 清水さんはいかがでしたか?
清水:「さすがだな」の一言でした。動物の声だったのに、魔法が出てきた!と(笑)。3つ案を出していただいたので、その中から2つの案を選び、2冊同時に出版することになりました。
清水:先日、このギミックが使われた海外絵本を紹介してくれたエージェントにお会いしたのですが、その人がとてもビックリしていました。動物の鳴き声から、フリフリして音を出して、魔法がかかる内容になるなんて……まさに“magic(マジック=魔法)”だ!と(笑)。
───たしかに(笑)。元々はアザラシ、キツネ、ネズミ、ネコの鳴き声の4つがあったと仰っていましたが、この2冊はどの動物だったのでしょうか。
清水:アザラシとネズミでした。エージェントはオーストラリアから発信している会社でしたが、僕が手にしたのは、スペインで発行された絵本だったと思います。音が出る原理が面白かったし、こんなふうに遊べるよ、こんな絵本もあるよと、日本でも紹介したいと思いました。版権を取ってそのまま翻訳する方法もありましたが、オリジナルの日本製として出版したいなと。
今回たかいさんのアイディアで新しい作品になったように、ギミックから発想された作品の幅が広がりましたね。だから来日したエージェントさんに、「完成しました」と2冊の絵本の現物を見せたときにはとても驚いていましたし、この2冊の絵本をまた各国に紹介していきたいと言ってくれました。海外の絵本を、たかいよしかずさん色、ミキハウス色にリメイク風に変えて仕上げられたことが、いい形になったなと嬉しかったです。