赤ちゃんに絵本を読んであげたり、語りかけることは大切って聞くけれど、赤ちゃん絵本って読み方が難しかったり、読んでもあまり反応がなかったり。どうやって語りかけていいのかもよくわからない! そんな声をよく耳にします。
自由に読んでいいと言われると、どう楽しめばいいのか、なかなかイメージがわかないこともありますよね。
そんな悩みに応える絵本シリーズがあります。ご紹介する「語りかけ絵本」シリーズ(大日本図書)は、なんと、文をそのまま読めば、自然と語りかけができて、親子のコミュニケーションが楽しめるように工夫されています。
作者のこがようこさんは、絵本作家・絵本コーディネーターであり、長年「語り」の活動をされています。このシリーズがどんな風に生まれたのか、語りかけがどうして大切なのか、新刊『語りかけ絵本 どんぐり』の発売を記念して、お話を伺いました。
- 語りかけ絵本 どんぐり
- 文・絵:こが ようこ
- 出版社:大日本図書
「語りかけしたいけど…どうはじめたらいいの?」 「絵本を読んであげたいけど…どれから読めばいいの?」 という、育児にがんばるママパパを応援するためにつくられた絵本です。 「どんぐり」と読みながら、体をそっとゆらしてあげると、あかちゃんはとってもうれしそう! ぜひ親子ですてきな時間を過ごしてください! ※巻末に、読んであげるときの「ちょこっとヒント」もまとめました。
───シリーズ第3弾の新刊『語りかけ絵本 どんぐり』(以下『どんぐり』)は、どんぐりが落ちてきて、だんだん増えていく、とてもかわいい一冊ですね。子どもたちが一目で夢中になりそうです。
子どもって、どんぐりが大好きですよね。拾いたくなるし、つまみたくなる。「語りかけ絵本」シリーズで『語りかけ絵本 ひよこ』と『語りかけ絵本 いちご』(以下『ひよこ』『いちご』)を出版して次の作品を考えたときに、どんぐりを、絶対語りかけの題材にしたいと思いました。
───このシリーズの作品は、文章をそのまま読むだけで優しく子どもに話しかけるような言葉になっているのが特徴ですね。まず「語りかけ絵本」シリーズが生まれたきっかけを伺えますか?
私は「語り」(※)の活動をしているのですが、ずっと、自分にとっての「語り」とは何だろうと考えていました。保育の現場で働いていたとき感じたのは、言葉だけではなくて目と目が合うとかスキンシップをするとか、微笑みかけたら微笑み返してくれるとか、そこで心が触れ合うこと、そのひとつひとつが「語りかけ」で、それが私にとっての「語り」の原点なんだということでした。それで、「語りかけ」について考え始めたんです。
もともと絵本は「語りかけ」に良いツールですが、絵本をつかってどうやって「語りかけ」をしていいのか、難しく感じるお父さんお母さんもいます。それなら、文章をそのまま読んでそれが「語りかけ」になる絵本があれば、「これならできる!」と思っていただけるかなというのが、企画の出発点です。
※語り…本や紙芝居など、物を使わず言葉(声)だけで「おはなし」を届けること。
───絵本での「語りかけ」というと、読み聞かせのときに、読み手が物語の補足をしたり、「かわいいね」とか、「おいしそうだね。」「〇〇ちゃんはどれが好き?」と声をかけて、文章を読む以外の部分で子どもたちとやりとりする、読み手ががんばらないといけないイメージがありました。
言葉は、もちろん語りかけのひとつですが、言葉が上手く伝わらなくても、大丈夫。子どもから微笑みが返ってきてかわいいと思う。その時間が大事だと思うんです。
大日本図書・當田: こがさんの絵本『わがまんまちゃん』を編集した際、こがさんの「語り手」としての活動に触れる機会があり、「語っているそのもの」が、こがさんなんだと感じました。そこで、今までこがさんが作られた資料を、お願いして全部送ってもらったんです。おはなしや手遊びのための型紙や、イベントのプログラムなどがたくさんありました。こがさんは「『語り』って楽しくて面白くて親子で楽しめるのに、どうしてみんなやらないのかしら」とおっしゃっていたので、それなら次の絵本は、親子で一緒に楽しめる「語りかけ」をテーマにしましょうとお願いしたんです。
ライブ空間で楽しむ「語り」をそのまま2次元の絵本の世界に閉じ込めることはできません。でも、こがさんなら絵本をベースに、語りの要素や面白さを入れることが出来るんじゃないかとイメージがわきました。
───そこから、シリーズ第1弾の『ひよこ』と『いちご』の制作がスタートしたんですね。 「ひよこ」と「いちご」というモチーフはどうやって決まったのですか?
- 語りかけ絵本 ひよこ
- 文・絵:こが ようこ
- 出版社:大日本図書
「語りかけしたいけど…どうはじめたらいいの?」 「絵本を読んであげたいけど…どれから読めばいいの?」 という、育児にがんばるママパパを応援するためにつくられた絵本です。 「ぴよ、ぴよ」と読んあげると、そのリズムに体をゆらして、あかちゃんはとっても楽しそう! ぜひ親子ですてきな時間を過ごしてください! ※巻末に、読んであげるときの「ちょこっとヒント」もまとめました。
『ひよこ』は、保育の場やおはなし会で、自分がパネルシアター(※)用に作ってずっと子どもたちと遊んでいたものでした。ひよこが「ぴよっ」と出てくるだけで、子どもからすごい反応が返ってくるのを、現場で見ていたので、これなら絵本になるんじゃないかと、迷わず決まりました。
※パネルシアター…パネル布を貼ったボードを舞台にして、絵を貼ったり外したりして展開するおはなし、ゲームなど
───ページをめくるとたまごから「ぴよ」っと出てくるひよこが、かわいくてうれしくなってしまいます。
「いなーい いなーい」とページをめくって、ひよこが「ぴよっ」と出てくる場面は、大人が思う以上に子どもたちは大好きなんですね。
もう一冊の『いちご』は、子どもたちのすきな食べものをテーマにしたくて選んだ題材です。
- 語りかけ絵本 いちご
- 文・絵:こが ようこ
- 出版社:大日本図書
「語りかけしたいけど…どうはじめたらいいの?」 「絵本を読んであげたいけど…どれから読めばいいの?」 という、育児にがんばるママパパを応援するためにつくられた絵本です。 「いちご」と読んで、ゆびで絵をさしてあげるだけで、あかちゃんはとってもうれしそう! ぜひ親子ですてきな時間を過ごしてください! ※巻末に、読んであげるときの「ちょこっとヒント」もまとめました。
───『いちご』では、増えていったいちごが、パクリポクリと食べられていきます。この擬音も楽しくて印象的です。「語り」の活動のなかでも使っていた音の表現なのでしょうか?
そうですね。語りの中で身についてきたことかもしれないです。破裂音は子どもたちが大好きな音ですし、読んだ人が口に出したときも楽しい音だと思います。大人は子どものためにと思いがちですけど、読み手も楽しめるほうが絶対いいですよね。なので、いつも音は楽しくなるように意識して作っています。
───絵本の語りかけの文章は、どのように制作されたのですか?
そうですね。実は文章で悩むことがあまりないんです。場面を見ると、しぜんと言葉は浮かんできます。
───そうなんですか! たくさんのオノマトペや、語りかける言葉も、こがさんの普段の言葉として出てくるものなのですね。普通の絵本の文章を作ってから、語りかけの要素を追加していくのだと思っていました。
當田: こがさんにとって、場面に合わせた「語りかけ」の言葉が出てくるのは、きっととても自然なことなんですよね。なので、文章について心配したことはありません(笑)。できたラフを見ながら、こがさんご自身に声に出して読んでいただき、違和感がなければOKとしています。
───では、制作で大変だったところはどんなところでしたか?
24ページの絵本にするための構成は時間をかけました。どうやって場面展開をしていくかラフを何度も作って考えました。特に『どんぐり』の構成は悩みました。ひよこは動きがあるし、いちごは食べたらなくなるけれど、どんぐりはどうやって変化していく?ということが難しくて、繰り返しラフを作りました。擬人化も考えたのですが、転がったり落ちたりする動きにすれば、擬人化しなくてもどんぐりのかわいさが伝わるね、ということで、今の流れになりました。でも試行錯誤している途中に語りかけの要素が減ってしまって、「あれ、これだと普通の絵本じゃない?」と、ハッとしたり……。何度も當田さんと話し合って直していきました。
───『どんぐり』は、どんぐりが落ちて積もっていくのを親子で眺めておしゃべりしているみたい。どんぐりが増えて積み重なる展開も楽しいです。
「コロン!」「ストン!」「ポン」とどんぐりが落ちて地面ではねるオノマトペも、声に出して気持ちいいですね。
『どんぐり』のラフは、最後、當田さんにも声に出して読んでもらったんです。オノマトペの部分をとても明るく読んでくださっているのを聞いたら、とても良くて、ああ、この絵本は大丈夫だ!と思いました。
───絵本の後ろ見返しにある「語りかけ ちょこっとヒント」には、「お子さんをおひざにだっこ。転がるどんぐりにあわせて、揺れたり、そっと抱きしめたり、スキンシップも楽しんでね」とありますね。これは、想像するだけで幸せな気持ちになります。
お子さんを膝の上で揺らして、まさにどんぐりみたいにして遊ぶと、一体感が出てとてもいいですよ。
───各巻に「語りかけちょこっとヒント」が掲載されているのも、このシリーズのポイントですね。語りかけのガイドやハウツーではなく、「ちょこっと」なのが、気軽に挑戦しやすいです。
『いちご』では、「つまんでモグモグ食べるマネ、お子さんに食べさせるフリ」を提案しています。本当は読者の方が自由に自然に語りかけをしてくれるのが1番良いと思うんですけれど、あえて、「こうやっていいんだよ」と言うのが、この絵本の大きな特徴ですよね。
───ヒントを見て、なるほど、こうやって遊ぶのかと驚く方もいると思います。
この「ちょこっとヒント」を入れるかは、ずいぶん悩みました。でも、ヒントを見てモグモグして、お子さんも食べるマネをしてくれたら、大人はすごく嬉しいわけですから。
「書いてあるから安心してできる」という声をたくさんいただいているので、結果的に良かったと思っています。