ちいさな女の子がお花をもつ後ろに立っているのは、一つ目の怪物? 絵本『ウーギークックのこどもたち』は表紙のとおりちょっぴり不気味でかわいらしくて、哲学的なテーマがこめられた本です。生きていれば避けられない、「こわい」と思う気持ちや「かなしい」と思う心。そんな人間ならではの感情を問いかけた、あたらしい絵本作品が生まれました。
実はこれ、2013年7月〜9月に放送された日本テレビ系連続ドラマ「Woman」に登場した架空の絵本『ウーギークックのこどもたち』が、視聴者の声に後押しされ現実の絵本になったもの。話題のテレビドラマを多数手がける脚本家・坂元裕二さんが書き下ろしたストーリーは、印象的なせりふが多く、「おしえて。いつしぬの。どこにいくの。そこはどこなの」と女の子が問いかける真摯な響きにドキッとさせられます。
女の子と怪物の、息がつまるようなやりとりを、かわいらしい絵で描いたのはイラストレーター林田秀一さん。林田さんにはメールインタビューをさせていただくことができました。
林田秀一さんのメールインタビューは次のページからです!まずは絵本の内容について、本書出版にあたり、編集を担当された中山真祐子さんにお話をうかがいました。
●気になる怪物、ウーギークック
───まず、このぱっと目をひく女の子と、女の子の後ろに立つ一つ目の生き物についておしえてください。どんなお話なのですか。
編集者・中山真祐子さん女の子の名前は、るる。るるが住んでいるのは病院で、まわりのともだちが1人2人と減っていくのは、地下のボイラー室に住んでいる怪物がこどもたちの魂を食べるからだとみんなが思っています。怪物の名前はウーギークック。るるはウーギークックにこどもたちの魂を食べるのをやめてもらおうと、ひとりで暗く湿気た地下へおりていき、怪物に話しかけます。
「あなたがウーギークック? わたしはるる。いったいなにをたべているの?」「あなたがたべているのは、こどもたちのたましいなの。おねがいたべないで」ウーギークックは目をぱちくり。「おなかがすいた」と言います。
るるは、ウーギークックにパンやハム、塩と砂糖と油、お花をもっていきます。でもウーギークックはぺっとはきだしてしまい「たましいのほうがおいしい」と言います。「にんげんはおかしないきものだ。どうしてしぬことをこわがるんだ」
ある日、るるはじぶんがしぬのは来週だということをウーギークックに教えられてしまいます。へやで泣いていると、ウーギークックがやってきて、さてどうなってしまうのか・・・というお話です。
「その こどもたちは みんな びょういんに すんでいました」
この子が「るる」です!
───ウーギークックは「こわい」という気持ちがわからないのですね。「にんげんはおかしないきものだ。どうしてしぬことをこわがるんだ」という言葉が印象的です。
この絵本には心に残るフレーズがたくさん出てきます。
自分がしぬことを知り、へやでひとりで泣くるるのところにウーギークックがやってくる、ここから後半部分で描かれるウーギークックの変化が本書の見どころのひとつです。
●人気脚本家がはじめて文章をかいた絵本
───「いのちはいのちだ。きょうあればいいのだから、ながいもみじかいもない」「にんげんはかなしい。にんげんだけが いつかしぬことをしっているいきものだ」
ウーギークックのせりふがどれもすごいなと思うのですが、人気脚本家の方がはじめて文章をかいた絵本だそうですね。絵本誕生のいきさつを聞かせていただけますか。
もともと『ウーギークックのこどもたち』は、シングルマザー役の女優・満島ひかりさんの好演が話題になった日本テレビ系ドラマ「Woman」のなかに小道具として登場した絵本でした。
ドラマのなかで主人公(満島ひかりさん演じる「小春」)とその娘(鈴木梨央さん演じる「望海」)が『ウーギークックのこどもたち』を声にだしてよみあげたのですが、放送中から反響が大きく、本は実際に出版されているのか、どこで買えるのかという問合せが多く寄せられたそうです。
「るるは あかい おはなと きいろい おはなを もっていきました」当時はドラマの制作進行にあわせて、使用する部分だけ作っていたそうですが、実物の絵本を読みたいという視聴者の声が大きくなるにつれ絵本化の話がもちあがり、脚本家の坂元裕二さんが全文書き下ろしを承知してくださり、イラストを描かれていた林田秀一さんもすべての画面を描きなおしたいとおっしゃられて、あらためて出版することになりました。
───出版まであまり時間がなかったとうかがっていましたが、そのスケジュールのなかで全画面描きなおされたんですか? 林田さんの作品への思いいれが伝わってきます。(イラストについては、林田秀一さんインタビューページ《2〜3ページ目》を見てみてくださいね!)
作者・坂元裕二さんについてもう少しおたずねします。坂元さんのプロフィールを拝見して「え、このドラマも!?」とびっくりしたのですが、話題になったドラマ作品の脚本をたくさん書かれている方なんですね。
はい。かつて大ヒットした『東京ラブストーリー』(柴門ふみさん原作)は坂元裕二さんの脚本です。最近では「Woman」「Mother」(共に日本テレビ系)をはじめ、「それでも、生きてゆく」「最高の離婚」(共にフジテレビ系)「チェイス〜国税査察官」(NHK)、「さよならぼくたちのようちえん」(日本テレビ系)などさまざまなドラマを手がけていらっしゃいます。近年は橋田賞、向田邦子賞、芸術選奨新人賞など数々の賞を受賞されています。
私自身も大ファンで、坂元さんが脚本を書かれたたくさんの作品に夢中になってきました。
───非常にお忙しい脚本家でいらっしゃるのではと思いますが、「脚本」と「絵本」の共通する部分はあったのでしょうか。
ドラマ制作についてはわからないのでただ一ファンとして感じていることをお話しますが・・・坂元裕二さんは、人間同士のかかわりや「いのち」などの難しいテーマにおいて、けっしてそこから安易な解決をしない作品を描かれる方だなと私はドラマから感じていました。そしてその姿勢は、絵本にも共通するものがあるのではないかと思います。
たとえば「それでも、生きていく」は犯罪被害者と加害者のそれぞれの家族を描いたドラマですが、生身の人と人のあいだに生まれる関係性をほんとうに真摯に描いていらっしゃると感じるのです。だからこそ、視聴者もくぎづけになる。
そんな坂元さんがはじめてかいた絵本『ウーギークックのこどもたち』に登場するのは、生まれたときから病院に住んでいる女の子、るる。るるは、こどもの魂を食べるという怖い怪物・ウーギークックのうわさを聞いたとき、知らないふりをしたりしません。ともだちの魂を食べるのをやめてもらおうと、逃げずにウーギークックに会いにいくるるの行動によって、ウーギークックもまた少しずつ変化していくのです。
───そういえば『ウーギークックのこどもたち』に大人は登場していないのですか?
はい、大人は登場しません。女の子のるると、ウーギークックの対話でお話はすすんでいきます。