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【長新太没後10年記念連載】 担当編集者&絵本作家インタビュー2016/04/07
今回おはなしを伺うのは、のら書店の恵良恭子さんです。
のら書店は、1983年、児童書編集者の礒野誠子さんと恵良恭子さんが二人で立ち上げた出版社で、2015年には長さんの絵本『ぼうし』『しっぽ』を復刊しました。 長新太さんと親交の深かった恵良さんから、長新太作品の魅力をたっぷりと伺いました。 さらに、長さんが画家さんや作家、編集者さんたちと共に購入したヨット「てふてふ号」のマル秘エピソードも?! どうぞ、お楽しみに〜。
●いろいろな「ご縁」が重なって、長さんの絵本を復刊できました。
―― 長新太さんに最初に出会ったときのことを教えてください。
はじめて編集者になったとき、最初に編集したのが長新太さんの『マコチン』(作:灰谷健次郎、出版社:あかね書房)でした。 その出版社では『マコチンとマコタン』、『ちょびひげらいおん』などの幼年童話を担当し、どの作品も長さんに依頼しました。そして11年ほど働いた後、同僚だった礒野と共にのら書店を立ち上げました。
―― 自ら出版社を立ち上げるというのは、大変な決断だったのではないですか?
それはとても大変で、みなさんが心配してくださいました。それでも最初に出版した『クシュラの奇跡ー140冊の絵本との日々』(著: ドロシー・バトラー、訳: 百々佑利子)がとても評判が良くて、出版社として自信をつけることができました。
―― 長新太さんの作品では『うみぼうやとうみぼうず』(作:山下明生)が、1985年に出版されていますね。この作品はどういった経緯で出版が決まったのですか?
のら書店ができたら、山下明生さん、灰谷健次郎さん、そして長新太さんに依頼したいと決めていましたので、満を持して山下さんと長さんにお願いに伺いました。山下さんも長さんも私たちが出版社を興すことをずっと応援してくださっていたので、二つ返事で受けていただきました。
―― 長さんとの仕事のやりとりの中で、印象に残っていることなどはありますか?
長さんほど、仕事に対して真面目できちんとした絵本作家さんはいないのではないかと思います。仕事のお願いに伺ったら、期日に合わせて原画を仕上げてくださいますし、その原画をそのまま印刷所に持って行っても問題ないくらい、印刷所への指定も完ぺきなんです。なのであえて、これぞという作品の依頼以外は頼まないように心がけていました。
―― そんなにしっかりとされていたんですね。当時から長さんはかなり売れっ子の作家さんだと思いますが……。
編集者の多くが「長さんがいっぱいいたらいいのに!」って思っていたと思います(笑)。でも、お忙しい様子を私たちにはほとんど感じさせなくて、お電話をしても、「長です〜」「いいですよ〜〜」という感じで、依頼を断わられたことはありませんでした。
―― 仕事の打ち合わせをするときは、長さんのご自宅に伺ったのですか?
はい。長さんの仕事部屋がすごく素敵なんです。ご自宅の二階が仕事部屋なんですが、部屋の一角に小さな応接コーナーがあって、長さんの本や長さんのお気に入りのものがいっぱい本棚に並んでいました。長さんはその前の机で絵を描かれているようでした。……というのも、お仕事をしている様子を編集者に見せることはほとんどなかったみたいです。打ち合わせに伺うと必ず一階まで迎えにきてくださって、帰るときも必ず送ってくださいました。
―― のら書店さんでは、昨年『ぼうし』、『しっぽ』の2冊を出版されました。長さんの赤ちゃん絵本って、とても珍しいと思ったのですが、発売に至った経緯を教えてください。
長さんが亡くなったときから、重版未定になっているもので復刊できるものがあればのら書店で出版したいと思い、長い間探していました。 最近になって、この2作が重版未定になっていると知り、すぐに出版したいと企画を進めました。ただ、原画や当時作られた製版フィルムが残っていなかったので、どのような形で印刷をするかなど課題がありました。 ちょうど、出版したころのきれいな状態のまま残っている『ぼうし』と『しっぽ』があったので、その本をスキャニングして版を作り、出版にこぎつけることができました。
―― 復刊するにあたって、変えた部分などはありましたか?
デザイナーさんに依頼して、今の子どもたちにも楽しめるようにしていただきました。大きく変わったところは、表紙の文字。写植のフォントから長さんの描き文字に変更しています。それと、見返しにもイラストを追加するなど、今風のデザインを意識しています。
―― 本文の中で変えたところはありますか?
内容は全く変えていません。1970年代に出版された絵本ですが、今の子どもたちの反応もすごくいいんです。 特に赤ちゃんがお気に入りと感想が送られてくるのは『しっぽ』のきつねのシーン。キツネが「きつねで ございますよ」というところで、赤ちゃんが反応するんですって。 「〜〜ございますよ」って、今のお母さんは言わないですよね。でも、子どもたちにはこの言い回しがとても新鮮なようで、何度も読んでいると覚えてしまうそうです。
―― 恵良さんは長年、長さんとお仕事をされている中で、いろいろな長さんの姿をご覧になっていると思います。特に印象深いエピソードなどはありますか?
そうですね……。長さんとは礒野の方が、関わりは深いんですが、今回、この企画の話をしたら、ある雑誌を託してくれました。それが、この雑誌です。
―― これは……。「てふてふ号メタメタ回航記」?
長さんが絵本作家仲間の田畑精一さんや山下明生さんと一緒にヨットを購入したエピソードは有名ですが、それがある雑誌で連載されていたんです。長さん、水はあまりお好きではないとおっしゃっていましたが、そのヨットを「てふてふ号」と名付けて、何人かの作家仲間と、航海に出かけたりしていらしたんですよ。
―― そうなんですね! かっこいい! でも、長さんがアウトドア好きだなんて、ちょっと意外でした。
アウトドアといっても、ヨットくらいだったと思います。あとはお仕事をされるか、夜に飲み屋に行かれるか(笑)。
―― 長さんの飲み屋のエピソードは有名ですね(笑)。最後に、恵良さんが担当した作品以外で、好きな長さんの作品はありますか?
どれって言えないくらい、どの作品も大好きなんですけど、『トリとボク』(出版社:あかね書房)を紹介します。長さんと出会うきっかけをくれた出版社の本ということで、選びました。
―― 貴重なお話を伺わせていただき、本当にありがとうございました。
のら書店 長新太さんの絵本
1958年のデビューから2005年まで独自のナンセンス世界を生み出し続けてきた長新太さん。 長さんってどんなひと? 知りたい方はこちら>>
(絵本ナビ編集部)
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