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連載

【長新太没後10年記念連載】 担当編集者&絵本作家インタビュー

2016/03/11

【連載】第2回 『なにをたべたかわかる?』 有川裕俊さん(絵本館代表取締役)インタビュー

【連載】第2回 『なにをたべたかわかる?』 有川裕俊さん(絵本館代表取締役)インタビュー

今回おはなしを伺うのは、『なにをたべたかわかる?』『にんげんになったニクマンジュウ』などの長新太作品を出版している絵本館の有川裕俊さん。
「絵本作家の中でも稀有な存在だった」と長さんを称する有川さんから見た、素顔の長さんの姿を伺いました。
●絵本の深い「溝」、それがなくなった日本を長さんに見せたかったなぁ…。
―― 長さんとの出会いを教えてください。

絵本館を立ち上げた頃、絵本作家の太田大八さんが誘ってくださって、はじめて長さんとお会いしました。太田さんと長さんは昔から飲み友達だったので、場所は、新宿の飲み屋街(笑)。 その夜は、3人で午後7時から午前2時ごろまでずっと飲み屋をはしごしました。

―― それはかなり強烈な出会いですね……。はじめて会ったとき、どんな話をしたか、覚えていますか?

ぼくは、編集の経験がなく出版社を立ち上げたので、編集者とはどういうものか長さんに聞いてみたいと思い、率直に「だめな編集者はどんなタイプですか?」って聞いてみたんです。そうしたら、「“『ぼくのくれよん』みたいな作品を、もう一冊描いてください”って言う人はだめだと思うね」っておっしゃって。ぼくの好きな絵本だったので、こういうことを言ってはいけないと、肝に銘じましたね。


―― そういう依頼をされる方が多かったのかもしれませんね。そんな出会いからはじまって、絵本館では5冊の長さん作品を出版されていますが、なかでも『なにをたべたかわかる?』は人気の高い作品だと思います。

『なにをたべたかわかる?』は、1977年に別の出版社で出版された作品なのですが、長らく絶版になっていました。絵本館でぜひ出版したいと思い、長さんに依頼に行ったのですが、残念なことに長さんのアトリエにはそのとき原画がなかったのです。それでも、このまま絶版にしておくのはもったいないと思ったので、絵本の画面をスキャニングして、出版することになりました。復刻に当たっては、装丁デザインを一新し、タイトルと見返しの絵を長さんに描きおろしていただきました。

―― 原画がないというピンチを乗り越えて、出版が実現した作品なんですね。

そうなんです。ただこの話には後日談があって、長さんが亡くなった後、長さんの作品の多くが保管されているちひろ美術館に伺ったら、そこに『なにをたべたかわかる?』の原画が保管されていたんです。

―― 原画がしっかり保管されていて、本当に良かったです。

長さんは昔からご自身の描いたものに執着しない方だと思います。いつだったか、お宅にお邪魔したときに、たくさんの原画をどうやって保管されているのかおききしたら「時々、庭で燃やすの」っておっしゃったのには、ビックリ。「ホントですか?」と聞いたら「欲しかったらあげるよ」って言われたんだけど、気が小さかったもので「ください」って言えず……。惜しいことをしたなって今になって後悔しています(笑)

―― なんて、もったいない。『なにをたべたかわかる?』は、黒と黄色というシンプルな配色が印象的な作品ですよね。おはなしも、まさか魚がこんなにいろいろ食べちゃうなんて…と長新太ワールドに引き込まれていきました。

長さんの絵本には食べるものがよく出てきますね。食べるということ、というか食べものが好きなんでしょうね。山がカレーライスになったり、人間になりたがるニクマンジュウがいたり、ものすごく大きなバナナがでてきたり。それに、電柱が歩きだしたり、とにかく尋常じゃないものが、たくさん出てくる。次はどうなるかわからない。予定調和が通用しない。だから、常識があると思っている大人たちは敬遠するんですよね。でも、そのほうがおもしろいから、子どもの心にはしっかりと届く。長新太の絵本は、世界的にみても特別でしょうね。


―― たしかに、二人とない作家だと思います。仕事のとき、長さんとはどんな話をしていたのですか?

仕事の話はほとんどしなかったなぁ(笑)。 長さんは自分のことをあまり話さないんですよ。ただ、ぼくがひょんなことから、長さんにお孫さんがいることを知って、「長さん、お孫さんがいらっしゃるそうですね?」って聞いたことがあるんです。「なんで知っているの?」って驚いていたんです。それ以降、お会いするといつも嬉しそうにお孫さんとのやりとりを話してくれるんですよ。その姿が本当に微笑ましくて、うれしそうな顔が忘れられませんね。

―― とても微笑ましいエピソードですね。絵本館で出版されている作品はどれも思い入れ深いと思いますが、ほかの出版社の作品で、特に好きな絵本はありますか?

さっきも話に出た『ぼくのくれよん』です。この絵本は、第一にクレヨンという発想が素晴らしい。カエルが出てくるところで「泳げません」と言うのもいい。それまでの絵本だと、ゾウがクレヨンで描いた池が本物の池になって、カエルは泳いでしまう。でも長新太は違うんです。リアリティがある。さらにはバナナが描いてあるけど、まるでバナナに見えない。「これがバナナですか?」ってね。バナナに見えないところがミソです。言葉と絵で描いてあることに距離がある。絵が文章の説明になっている説明絵本とは、根本的に違いますね。

―― 「距離」ですか…?

長さんは、この「距離を作る」ことを楽しんでいたと思いますね。物語の中に「距離」が生まれると、子どもたちも「これはなんだ。今まで読んできた絵本とは何かが違うな」って思いますよね。距離があれば、子どもでも大人でもそれを埋めようとするのは自然でしょう。ナンセンスは、子どもの頭をめぐらせる、というか活発にするのにすごくいい。長さんの絵本は、ナンセンスとリアリティのバランスが素晴らしいんですよ。

―― そんな深い考えが長さんの作品に入っているなんて、知りませんでした。

長新太は本当に特別な作家ですね。日本に長新太がいたことは、絵本界の宝だったと思います。それだけでなく、多くの絵本の作家にこれほど尊敬されている作家も稀だったと思います。そのうえ子どもにも人気がある。これは普通、鬼に金棒というんですけどね。

―― 絵本館では、長さんが亡くなられた年、「追悼 長新太」という特集をホームページ上で開催しました。五味太郎さんをはじめ、中川ひろたかさん、長谷川義史さんなど、多くの絵本作家さんが長さんへの思いを寄せられていますね。

ぼくが気にしている作家の多くは、長さんから何かしらのものを受け取っていることは確かなんじゃないかな。……惜しむらくは絵本を買う普通の大人には、なかなかひびかないということですね。

―― そうなんですか?

やっぱり変だもん、話が(笑)。  だから、長新太を楽しんでいる我が子の姿を見ると「うちの子はこんなおかしな絵本が好きで、将来大丈夫だろうか」って不安に思っちゃうんでしょうね。絵本を子どもに買い与えるのは大人ですから、子どもの読みたいものと大人が読んでほしい絵本には、ナンセンス絵本が生まれてから今日まで深くて広い溝があるんですよ。それがなくなったら日本の絵本の活況は、もっとすごいことになると思います。そうなった日本を、長さんに見せたかったですね……。



序章 ナンセンスの王様 長新太さんってどんなひと?
1958年のデビューから2005年まで独自のナンセンス世界を生み出し続けてきた長新太さん。
長さんってどんなひと? 知りたい方はこちら>>


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