若き日の「わたしのおじいちゃん」が作ったのは、一着のコート。
お気に入りのそのコートを、いつも着ていたおじいちゃん。
そのうちコートはぼろぼろに……
「はさみでチョキチョキ、ミシンでカタカタ、針でチクチクぬったらば」
まだきれいな部分を使って、コートは上着に大変身!
しかしやがては上着もぼろぼろになってきて――
おばあちゃんとの結婚式のために作られた一着のコートは、ぼろぼろになってもそのたびに仕立て直され、いつでもおじいちゃんのお気に入り。
やがて上着になり、やがてベストになり、と少しずつ姿を変えながら、おじいちゃんに寄り添ってその長い人生を歩んでゆきます。
さあ、次は何になるんだろう?
そうしてわくわくしながら読み進めていくうちに、愛着をもってモノを大切に扱うことの大切さを教えてくれる一冊。
モノにはそれぞれに人の想いが込められているのだと気づかせてくれるので、自分のだけでなく人のものも大切にしようという心を育む絵本です。
線がくっきりとしていて見やすく、細部まで描き込まれた絵は、文章では語られないおじいちゃんの歩んできた人生の様々を、強い真実味をもって描き出しています。
情感豊かな絵の魅力によって、ひとりの人間の人生というものは、それが特別なものでなくとも深い感動を呼ぶものであると知ることができます。
「いいんだよ。なにひとつ、むだにはしてないんだから」
どんなものにも愛情を持って接すること。
そういう優しさが、色々な形で受け継がれてゆくということ。
おじいちゃんの一言に学ぶことが多いのは、むしろ大人の方かもしれません。
大切に大切にされながら少しずつ姿を変えていく一着のコートが、さいごのさいごに残したものはなんでしょう?
なにひとつ失われているわけではないのに、深い感動が胸をうつ一冊。
子どもや大人の区別なく、あらゆる世代の人に読んでほしい絵本です。
(堀井拓馬 小説家)
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