
北海道に、遅い春が訪れました。 海辺の丘ではハマナスが、紫がかった桃色の花を咲かせます。 そんな小さな丘のふもとに、キタキツネの巣穴がひとつ。 巣穴のそばでは子どもたちが、両親の帰りを待っています。 そのなかに、とてもちいさな体の一匹がいました。 これは、きびしい自然を生きるちいさなキタキツネの、ある一日を描いた作品です。
この物語は、いわゆる動物を主人公にした童話とは、少し趣が異なります。 作中におけるキツネの描写について、巻末にこんな著者の言葉が。
「人間の気持ちをキツネに重ねている部分もありますが、自然の生態にそったものです」
その言葉通り、主人公のちいさなキタキツネは、きびしい自然の理にさらされることになります。
じゃれあいの中で戦いを学び、そのために死に至ることもあるというキタキツネ。 弱肉強食の淘汰圧のなかで、兄弟間においても命を賭した競争があり、弱さは飢えとなって体を蝕みます。
そんな野生における生命のはかなさ、あやうさが、特徴的な版画の陰影が演出する緊張感と相まって、ヒリヒリと皮膚をなでるよう。
英語では「日本のバラ」とも呼ばれ、「北海道の花」にも制定されている、ハマナス。 そんなハマナスの桃色と、晴れ渡る空の青、丘に萌える緑。 そして、冷たくキリリと澄んだ北海道の空気が、今にも香り立つような鋭い陰影。
版画によって描かれた大自然。 その独特の味わいを、この一冊で。
(堀井拓馬 小説家)

はまなすの花が咲いている丘のふもとに、きたきつねの家族が住んでいます。おとうさんが食べ物を持って帰ると、子どもたちは奪い合います。小さな子はなかなか食べ物を口にする事ができません。おかあさんと兄弟が寝ている夜中に、おとうさんが帰ってきました。そして、おとうさんのそばにいくと…。 北の森に生きる、きたきつねの子どもの成長物語です。

遅い春を迎えた北海道には、はまなすの花が咲く丘があり、そこにはきつねの家族が住んでいました。
お父さんとお母さん、そして4匹の兄弟です。
その兄弟の中に、他の兄弟に比べて小さい子がいました。
その子は他の兄弟に負けてしまうので、両親が持って帰ったご飯になかなかありつけません。
いつも空腹で、バッタやかたつむりを食べてしのいでいました。
この絵本の親は、無関心を装いながらも子どもたちのことをよく見ているようです。
そのおかげで、小さなきつねは大きくなることができました。
小学生くらいのお子さんに良いのではないかと思います。 (めむたんさん 40代・ママ 男の子18歳)
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