「想像の力」があれば、どんな事だって起こりうる絵本の世界。だから面白いし、夢中になれるのだけれど、時にはしばらく頭から離れないほど印象に残る「ほんとうの話」というのもあるんだと驚かされたのがこの絵本。
今から100年ほど前に、カナダでほんとうにあった話です。
もうすぐ5歳になるアントニオが住んでいたのは、深い森に囲まれた小さな町ゴーガンダ。おかあさんが湖のほとりに立っている3かいだてホテルをやっていたのです。近くに子どもがいなかったので、アントニオの友だちは、ホテルで働く大人たち。そして、食堂のはしっこの台所の奥にある小さな部屋がアントニオの寝る部屋。2階の客室のドアが開いていれば中をのぞいてまわり、2段ベッドがずらりと並んだ3階の部屋では猟をする人や木を切る人たちと、夜までにぎやかに過ごします。アントニオはこの部屋が一番のお気に入りでした。
動物を探しに森の中もひとりで歩きます。でも、普段は動物はめったに姿を見せません。猟師がいたり、罠があったりするからです。もっと奥の方に隠れているのです。
その夏、森から煙が出ているのに気がつきます。おそろしい山火事が起きたのです。あっという間に燃え広がり、逃げる場所はただひとつとなりました。湖です。町にいた全ての人たちが湖に浸かります。でもそれは、動物たちも同じでした。その時、目の前で繰り広げられたのは思いもよらない光景で…。
それは、絵本の中でも息を飲む瞬間。アントニオと同じく、読者もきっといつまでも忘れないことでしょう。人間と動物を隔てていたものがなくなった、その時間のことを。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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これは、いまから100年ほど前に、カナダでほんとうにあった話です。
アントニオは、深い森にかこまれた、みずうみのほとりにすんでいました。近くに子どもがいなかったので、アントニオの友だちは、はたらくおとなたち。動物をさがして、ひとりで森を歩くことも好きでした。
ある夏、おそろしい山火事がおきました。にげる場所は、ただひとつ──みずうみです。人間も、動物も、必死に生きのびようとしたそのとき、アントニオの目の前で、思いもよらないことがおこったのです……。
人間と動物の思いがけない出あいを繊細に描いた、胸に迫る絵本です。(5歳から)
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