「私の祖先はどんな人なのか?」
みずからのルーツを探り、家族の出自を過去へ、過去へと調べていくマイケルは、ロビー・マクロードという名の祖先が遺した遺言書にたどりつく。
「今ある私のすべて、人生のすべては、最後のオオカミのおかげである」
そこには、おどろくべき悲惨な歴史の記述が残されていた。
両親を知らず、飢えと暴力に怯え、やがては愛を知り、しかしそれも戦争に奪われて……
貧困と戦争に翻弄され、イギリス軍から追われる身となったロビー少年が出会った、一匹の幼いオオカミ。
「その日から、食べ物はいつも二人分、生きていくわけも、二人分になった」
イギリス軍に追われる少年と、人間から忌み嫌われるオオカミ。
敵だらけの世界で隠れるように暮らすふたりに、やがて冬までもが迫り来る……
貧しさから盗みをはたらき、ときには腐った食べ物さえ口にして飢えをしのいだ、幼い日。
大自然のなかで共に狩りをし、いっときの自由を謳歌した夏。
きつく、賃金の安い仕事にありついて、密告に怯えながらも懸命に働いた秋。
自分が当事者ではなくとも、自分の祖先をたどっていけば、そこにはロビー少年とオオカミのように、大きく歴史の動いた瞬間を懸命に生きていた誰かがいたのかもしれない。
この作品を読んで、そんなふうに思いを巡らせました。
そこには悲惨な戦争があり、歴史的な飢饉があり、大きな天災があったかもしれません。
そのなかで、それぞれが懸命につないできた命が今の自分につながっている――
ロビー少年とオオカミの友情が胸を打つのもさることながら、みずからの家系をたどるという導入でこの物語を飾ったのは、作者マイケル・モーパーゴもまた、そういう奇跡に思いをはせていたからではないでしょうか。
歴史の奔流のなかで身をよせあい、全力で生きるふたりの姿に、強く心動かされる物語です。
そして、祖先がたどった激動の歴史を知った老マイケル・マクロードが、遺言書に記された最後の地で出会ったものとは?
(堀井拓馬 小説家)
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