「それは それは ねぐるしい
なつの ばんやった。
あつくて あつくて ねるどころか
どうしようもあらへん。」
冒頭からすぐにその熱気が感じられます。そして、ぼんやりと浮かぶ月と、集合住宅の様子。表紙の絵からも、ペク・ヒナさんの独特の世界観が伝わってきます。
「ぽた……ぽた…ぽた
なんのおとやろ? お月さん とけてはるがな」
「えらいこっちゃ」しっかり者のおばあちゃんが、お月さんのしずくをたらいで受け取って、どうしたと思いますか? なんと、シャーベットの型に流し込み、冷凍庫に入れて凍らせるのです。ところが、エアコンや扇風機、冷蔵庫フル稼働の集合住宅が停電すると、おばあちゃんの部屋だけシャーベットの光がともっているではありませんか! それはとっても映像的でドラマティック。そして、集まってきた住民に、おばあちゃんがふるまった、シャーベットのお味は? 想像してみてくださいね。
さて、もう一つの難題「消えたお月さんをどうするか」。これもまた、不思議で、ロマンティックで、それでいて妙に納得の解決策ですのでお楽しみに。今夜のお月さんを見る目が変わるかもしれませんね。
『天女銭湯』『あめだま』などの作品で注目を集め、2020年にはアストリッド・リンドグレーン記念文学賞を受賞されたペク・ヒナさん。インパクトのある粘土人形とアングルで独特な世界が印象的でしたが、今作は少し趣が違います。ペク・ヒナさん初期の作品で、紙で作った人形とミニチュア模型が織りなす世界です。長谷川義史さんの軽快で愉快な大阪弁も、世界観を盛り立てくれます。
このシチュエーションと表現方法だからこそ味わえるリアリティ。視覚、聴覚、味覚、体感フル稼働で楽しんでください。住民たちの個性豊かな部屋もサブストーリーとして見逃せませんよ。
(中村康子 子どもの本コーディネーター)
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