「あさだ! 」
太陽が顔を出すと、わたしの一日がはじまる。ねぼすけたちを起こして、働きものを送り出す。わたしは、波。ほら、ぼうや。怖がらないで、音を聞いてごらん。
「さん ささーん」
波打ち際では、子どもたちと追いかけっこをしたり、自分にそっくりなスカートとたわむれたり。海水浴でにぎわう昼下がりもお気にいりの時間。午後になればちょっとお昼寝。あれ、可愛いお花。添えてくれたのは若い女の人。そこにやってきたのは……?
画面に広がる美しい海を背景に、繰り広げられるのは日常の風景からちょっと不思議な出来事まで。描かれるのは、そこに住む人々の豊かな表情や忘れることのない思い出、そして新しい出会いも。毎日同じようで、少しずつ違う一日。同じ場所なのに、時間によってまるで違う色を見せる景色。おもいのほか愛らしい波の語り口。それらが、人々の様々な思いを全て包み込んでくれるように感じるのは、気仙沼で海と育った作者・阿部結さんが描くからこそなのでしょうか。
海の町で暮らすということ。その場所に行ったことがなかったとしても、存在をしっかりと感じとることができるこの絵本。よせてはかえす波の音を聞きながら、なんだかかえりたくなってくるのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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