炎を灯した9本枝の白い燭台と、
空色に金色のタイトルがとても印象的な美しい表紙。
厳かな気持ちでゆっくりとページをめくると、まず、その凛としたしかけの美しさに目をみはります。
虹色にうつりかわる美しい夜空を背景に、白一色が映える荘厳な神殿が、突然目の前に立体的に登場します!
細部までつくりこまれた繊細なしかけをじっくりとみてみると、神殿の中に小さな金色の炎らしきものが2つ、揺らいでみえます。次のページをめくってみると、今度は三日月の下、らくだと砂漠のテントが出現です。先ほどとはまったく異なる美しい世界が広がり・・・。あれ?ここにも。テントの中を見ると、今度は炎が3つ灯されているのです。
ページを開くたびに、新たに展開する時代背景や場所も異なる8つの美しい物語。
一見脈略もないそれぞれの物語は、ある一つの共通点で結ばれています。それはいつの時代のどの場所でも、必ず誰かが毎晩ろうそくを1本ずつ増やして、あかりを灯し祈りをささげていることです。
このしかけ絵本は、「紙の魔術師」ロバート・サブダが、古代から続くユダヤ教のお祭り「ハヌカー」を、時代と場所を越えて再現した壮大な作品です。私たち日本人には、あまり馴染みのない「ハヌカー」ですが、その起源は、紀元前2世紀にものぼります。当時迫害されつづけたユダヤの人々が、はじめて自由をもとめ勝利をおさめた際、異教徒にけがされた神殿を清めるために、清めの油を燃やしました。1日分しかなかった清めの油が、燃やすと8日間燃え続けたこの奇跡を自分たちの信仰の支えとし毎年祈ることにしたそうです。
今でも寒い12月になると、ユダヤ教では窓辺に置いた9本枝の燭台のろうそくを、8日間、毎晩1本ずつ灯し家族でお祈りして「ハヌカー」の奇跡を祝うのだそうです。
はるか遠くの古代から続く未来を信じる神聖な祈り。
静かな夜にそっと開いて、いつまでも眺めていたい宝物のようなしかけ絵本です。
(富田直美 絵本ナビ編集部)
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