タイトルの「あめふらし」という生き物、知っていますか? 海にいる軟体生物なのですが、かたつむりの殻がなくなったような外見で、からだはぐねぐねと柔らかい。海中で身を守るために紫色の液体を吐き出す、なんとも不思議な生き物なのです。
グリム童話って、動物が出てくるイメージだけど、あめふらし? 意外なくみあわせと、不思議な静けさをたたえた絵に惹かれて思わず手にした本書ですが、冒頭から驚きの展開で引き込まれます。
あるところに王女がいました。お城の高い塔の広間には12の窓があり、国じゅうを見渡すことができました。あるとき、王女に結婚話がもちあがります。でも、気が進まない王女は、こんなおふれを出します。
「王女と結婚したい者は塔からみてもわからない場所にかくれよ。失敗してみつかったら、さらし首にする」
結婚か、死か。命をかけた究極のゲームがはじまります。我こそはと名乗り出た若者たちは、知恵をしぼって身を隠しますが、次々に見つかって、首を切られてしまいます。
さて、三人兄弟の末っ子である美しい若者も、このゲームに挑戦することになりました。若者は自分が命を救ってあげた動物たちの助けを借りて、このゲームに挑むことになるのですが……。
え? この物語のいったいどこに、あめふらしが出てくるの? と思いますよね。ぜひとも絵本を読んで確かめてみてください。予想をはるかにうわまわる意外な展開に、びっくりすることまちがいなし。グリム童話って、なんとなく知っているつもりでいたけれど、しったかぶりの自分を猛反省。こんなに面白くて残酷で、こんなに奇妙でひねくれていて、こんなに魅力的だったんだと、新鮮でした。
ページを開くごとに広がる濃密で素晴らしい絵は、国際的かつ伝統的な「ブラティスラヴァ世界絵本原画展」でグランプリに輝いた作品です。簡潔でリズミカルな文章とともに、豊かな物語世界へと誘ってくれます。
(光森優子 編集者・ライター)
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