はじまりは、ある日の「ぼく」の日記から。
「きょう ぼくは はじめて おとうさんの うまれた うみべの まちへ いきます。」
朝早く白い車に乗って、家族は山の家を出発します。山のふもとの牧場を過ぎ、田んぼの一本道を通り、大きな駅が見えてきます。さらに高速道路、工場の前を過ぎると、大きな橋が見えてきます。
「うみだ!」
さあ、お父さんの言っていた白い灯台が見えてきて……。
2024年に絵本作家デビュー20周年を迎えられた三浦太郎さんの、記念すべき50作目。山沿いの家から海辺の町へと向かう道中、次から次へと移り変わっていく景色を楽しめるこの絵本。いくつもの線路が並ぶ駅やきゅうくつな雰囲気の街並み、カラフルなショッピングセンターや退屈な渋滞。なんといっても目の前に広くて青い海が目に飛び込んできた瞬間に心が躍ります。
ところが、それだけでは終わらないのです。最後のページを閉じると、そこには「やまへ」というタイトル。もう一度後ろからめくっていくと、今度は「わたし」の日記がはじまるのです。
「きょう わたしは はじめて おかあさんの うまれた やまの いえへ いきます。」
小さな赤い車に乗って出発する「わたし」の家族は、海から山へ。そこから見える景色は……?
絵本をひっくり返すというダイナミックなしかけ。すると、同じ景色でも印象が変わってくるから不思議です。遊び心たっぷりなこの美しい一冊を、くりかえし存分に味わってみてくださいね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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