表紙の重厚な絵に惹かれて読んだのですが、久しぶりに魂を大きく揺さぶられる絵本に出合いました。
これは傑作だとしか言いようがありません。
バージニア・リー・バートンの「ちいさいおうち」を、現実的に時代背景を検証して、家の目線で人の歴史を描ききったものと言えば良いでしょうか。
物語は、1656年にこの家が建てられたシーンから始まります。
この年は、ペストが大流行した年。
その家は、長い年月を経て誰も住まなくなります。
1900年になり、ここからが本当の物語の始まりです。
日本で古民家は、なかなか残りませんが、ヨーロッパでは、平気で100年を越す家が存在すると良く聞くのですが、まさにそんな感じです。
1900年にこの廃屋を見つけたのは子供たち。
そこから、家の改築が始まり、ここに住む人達は工夫を重ね、強い品種の果樹を育てます。
結婚、誕生、第一次世界大戦、戦死、第二次世界大戦、子の旅立ち、死と、家はその出来事を静かに見守っています。
幸せな出来事もあれば、不幸な出来事もある。
生誕の至福、収穫の喜び、戦争の悲惨さ、別れの悲しみ等等、人々は1日1日を積み重ねていき、それが歴史を織り成していく、そんな当たり前のことを深遠な言葉で語りかけてきます。
精緻な絵は、重厚で1枚1枚が美術館にあってもおかしくない程の出来栄えです。
年を追うごとに成長あるいは、枯れ果ててしまう木々、少しづつ手が加えられる家や外溝等の変化も、歳月の重みを丁寧に表現しています。
エンディングの明るい色調の家への建替えも、明るい未来を暗示しているように感じられました。
そして、何よりもこの作品の凄さは、文章の力強さにあります。
4行に纏めた文章は、どれも、心の琴線に触れるもの。
抒情詩のようにすら思える素晴らしい珠玉の言葉が散りばめられています。
明らかに大人の絵本です。
それも上質この上ない作品なので、是非読んで頂きたいと思います。
感じ方はそれぞれだと思いますが、自分の人生について考えさせられることは間違いないはずです。
私にとっては、手放すことの出来ない1冊となりました。