絵本制作の現場を知らない。
例えば、絵本作家と呼ばれる人であれば、文も絵も一人で担当して一冊の絵本を造る。
では、文と絵が別々の作家だと、どういう割り振りになるのだろう。
文を担当する書き手が文章だけを書き、書かれた文章にイメージを膨らませて絵を担当する絵描きが描いていくのだろうか。
あるいは、文を担当した書き手が絵描きにここにはこういう絵を描いて欲しいとお願いをするのだろうか。
この絵本の場合、文を担当しているのは、短歌界の新しい波を築いて、現代短歌の第一人者でもある穂村弘さん。絵は、自身絵本作家として多くの絵本を造り、本の装丁にも多くの作品を提供している酒井駒子さん。
そんな二人が一冊の絵本を造ったのだから、どんな風にして出来上がったのか興味が尽きない。
何しろこの絵本には、「しーん」「カチッ」「はっ」「ちゃぽん」「「みつあみちゃん」」、これだけの言葉しかない。
文を書いたのは穂村弘さんであるのは間違いないが、これだけで酒井駒子さんが絵をイメージしたのだろうか。
例えば、「しーん」には、花の蜜を吸う紋白蝶が描かれている場面が2枚。もう1枚は、その花から飛び去る紋白蝶が描かれている。
一方は「しーん」の三文字、対する絵描きは3枚の絵を描く。
これは読者としての私の推測だが、穂村さんと酒井さんは何度も打ち合わせをしたのではないだろうか。
「しーん」という言葉に込めた意味を穂村さんが酒井さんに説明する。酒井さんが最初の図柄を描く。穂村さんがこういうのはどうだろうと提案する。酒井さんが、それではと描き直す。
そういう工程があって、「しーん」に紋白蝶が描かれたのではないだろうか。
あくまでも、絵本制作の現場を知らない読者の思いではあるが。
穂村さんがこうして欲しいと譲らなかったのは、最後の「「みつあみちゃん」」という言葉の絵だと思う。
この絵本のタイトルが「まばたき」とあるように、「みつあみちゃん」がたった3枚の絵で老婆に変わるのは、「まばたき」をするだけのわずかな時間。
穂村さんはそれだけは譲らなかったのではないでしょうか。
なんとも奥深い絵本だ。