「おかあさんはね」というタイトルのとおり、おかあさんの愛情のこもった言葉が詰まった絵本です。同時に、大人が読んでも心があたたまる、とても深く、広い世界観を持った本でもあります。
この絵本は、一見すると母親の視点から、わが子へのメッセージが綴られているのですが、もっと普遍的な意味と視点を持っているようにも感じられます。おかあさんの視点から語られているのだから、当然と思われるかもしれませんが、この絵本にはおかあさんは出てきません。
絵本の中で描かれるのは、生き生きとした表情の子供たち。
そして、わが子を見守るおかあさんの優しい視点と言葉。
まるで、空から見守っているかのようにも思えるのです。
目の前にいるわが子を見守る視点のようでもありながら、遠い未来、遠く離れた場所から、わが子を思い続けているようにも、感じられるのです。愛情の深さと同時に、時間的、意味的な広がりのある絵本です。
小さいお子さんが読めば、おかあさんの願いを想像しながら読むことができ、おかあさんに抱かれているような優しい気持ちになれることでしょう。中学生ぐらいの思春期になってから読んでも、親の気持ちを理解する手助けになってくれるかもしれない。そして、大人になり自分が親の立場になってから読むと、この絵本の「おかあさん」に共感し、この本を読み聞かせてくれた自分のお母さんも、きっとこんな気持ちだったんだ、とわかる日が来るんじゃないかと思います。
この本自体に、感受性と想像力を育むような、意味の奥深さがあり、子供が読んでも、かつて子供だった全ての大人が読んでも、必ず心に響く部分があります。自分が年を重ねるごとに、この絵本から感じるメッセージが変わっていく、自分の心の変化を感じることができる、一緒に成長できる絵本です。
英語の原題は「I Wish You More」。
原文では、ほぼ全ての文章が「I Wish You More」から始まるように統一されており、「私はあなたにもっとこうなってほしい」という願いが、シンプルな文法と、リズムの良い言葉で綴られていきます。このタイトルを「おかあさんはね」と訳し、シンプルですが奥行きのある世界観を、リズム良く美しい日本語にのせた高橋久美子さんの翻訳も、非常に優れています。
僕自身は今のところ独身で子供もおりませんが、甥っ子へのプレゼントにしようとサンプルに目を通しました。甥っ子も将来、この絵本の語り手である「おかあさん」のような、優しい気持ちを持った大人に育ってくれることを願っています。願わくば、甥っ子も親になったとき、この絵本を子供に贈ってくれますように。