4歳になりたての頃、息子はこの本がとても気に入っていました。毎日毎日「よんで」と持って来ては、穏やかな表情で幸せそうに絵を眺めていました。
りんごのきとマルチンの一年を、淡々と描写しただけの本です。と言ってしまうと何やらつまらなそうに聞こえてしまうかもしれませんが、どっこい、とても底力のある本です。単純なようでいて、実は季節の叙情に溢れた絵。りんごのきの後ろでは小麦畑が豊かに育ち、芝の緑は力強く、隣家には人の営みの匂いがします。おとうさんとおかあさんに見守られながら、りんごのきの変化をつぶさに見つめる、ちいさなマルチンの表情。子供にとって季節の移ろいは、それそのものが不思議に満ちた「センス・オブ・ワンダー」です。一見、変化に乏しいと思われるストーリーの中には、自然の営みの美しさ、子供の好奇心の豊かさや子供にとって頼れる大人とは何か、など、ささやかながら深いテーマが織り込まれ、世界を広げてくれるような気がします。
劇的なドラマや大きな感情の波が描かれていなくても、こういう、穏やかで心に染み渡るようなな絵本を欲する時期が、子供には必ずあるのではないかと思うのです。甘いケーキのように大喜びで飛びつきはしないかもしれませんが、当たり前だけど忘れがちな大切なことを、さりげなく読む者の心に思い起こさせてくれる、こころの水のような絵本だと思います。
さて息子ですが、もうすぐ5歳になる今、以前のように毎日この本を手にしてはいません。けれど、大事な本のようです。読んで欲しい時には必ず「ぼくのだいすきな(えほん)」という形容詞付きで持ってきます。