アンデルセンのお話も素晴らしいのですが、見返すたびに藤城さんの影絵にウットリしてしまいます。
ワインでいえば芳醇なブルゴーニュの赤。
しかもワイナリーでかなりの年月寝かされて熟成した極みを感じました。
多分あとがきにもあるように、藤城さんの思いが、ここまでの精度と味わいを深め、集大成の形でリメイクされた渾身の作品だからでしょう。
話はワインボトルの数奇な旅と、ワインボトルが出会ってきた人々と冒険。
しあわせな二人が1年後の結婚式を約束したのですが、男性が航海に出た先で遭難してしまいます。
恋人は許嫁への手紙を空のワインボトルに託します。
ワインボトルは二人のしあわせの絶頂から、長い年月の後に年老いた彼女との再会までの旅を語ります。
ワインボトルは出会ったこと見たものをただ受け入れただ見届けるだけ。
いくつかの悲しみがさりげなく即物的に語られます。
話に紆余曲折があるので、何度読み返しても飽きません。
そのくせお気に入りの映画のように、感動の中にすっかり引きこまれてしまいます。
そして藤城さんの絵。
黒の凛々しさと、彩色をほどこした背景の調和がたまりません。
あるときはスケールの大きな絵画のように、あるときは話を浮かび上がらせる黒子のように、そして動画のように…、絵本の一部であるのが申し訳ないように満ち溢れています。
ワインボトルの中にいろいろな思い出を浮かび上がらせ、表現もくっきりしていたり、ぼやかしたり、心の中で香りが拡がって行くように思いました。
大人にとっては、ワインかウィスキーを楽しみながら味わう絵本のようです。
思春期を迎えるロマンチック世代にお薦め。