お金持ちの住む町の古びた空き家に越してきたクロケットさんは、町の人に変わり者扱いされながらも、身の回りのことを丁寧に整えながら暮らしているおじいさんです。クリスマスイブの夕方、彼は花屋の奥から「だれかに呼ばれたような」気がして、店に入り、今にも枯れそうな小さなモミの木と出会うのです。そこから、数年の月日を経てラストの美しいモミの木のシーンまで、クロケットさんの誠実さそのままにお話は進んでいきます。
「生きているものたちは、みんなおたがいに気持ちがつたわることを、クロケットさんは知っていたのです」というくだりに深くうなずけます。
生きているということは、ただ息をしているということとは違います。クロケットさんが来るまで、いや、来てからも、ただ息をしているだけだった町の人達も、長い間に彼の持つ生きていくことの本当の力にぎこちなく呼応しはじめたのでしょう。(無論、子供達が大人達より先に呼応します)それが、モミの木に結晶したと言えるかもしれません。
このお話は世の中にクリスマスというものがある意味を、宗教観を超えて伝えてくれます。
小さな本です。絵の部分をスライドなどに投影して、小さな会場で静かに朗読できたらいいなあと思いました。
もちろん、ひとりで静かにページをめくるのも最高です。