三代沢さんの記憶は3歳の時の大空襲の体験から始まっていると言います。
50年を経た歳になっても、鮮烈に残っていると言います。
自分の記憶を語りながら、その時の恐怖を描いているのですが、先ずは絵のインパクトに目を奪われました。
抽象画のようでありながら、その時の情景と恐怖が克明に描かれています。
これは、心に刻まれたトラウマがそれだけ大きいものであり、深く哀しいものだからだと思います。
3歳の時、三代沢さんは訪ねてきたいとこの明子姉ちゃんとともに大空襲の夜を迎えました。
逃げ込んだ防空壕も、焼夷弾で燃え始めます。
生まれたばかりの弟と母と明子姉ちゃんと自分。
4人で防空壕のそばの池の中で夜を明かします。
降ってくる火の粉と、足が池底につかない怖さに必死で明子姉ちゃんにしがみついていた自分。
火の粉を払いながら、片腕で抱きかかえてくれていた明子ねえちゃん。
それだから今の自分がいる。
息を引き取ったと思った赤ん坊の弟が、母親のおっぱいで息を吹き返した。
その光景と自分が生きていることのありがたさ。
三代沢さんは描かずにいられなかったのです。
作り話ではない重さ、人の創作ではない緊張感のある絵…。
この絵本には、にじみ出てくる命の叫びを感じました。