兄が合格した私立学校の受験に失敗した公立中学に通うの海生。幼い頃から優秀な兄と比較され育ってきた海生は、受験に失敗したときから、その学校の高校受験勉強をさせられいます。そんな状況に耐えられなくなった海生は、親友の田明とその妹と一緒に、亡くなったばかりの祖父のヨットで家出をするのでした。
この物語では、中学生がヨットを操縦することに驚かされますが、それ以外には、大きなトラブルは起きません。ただひたすら目的とへと向かう子どもたちの様子とヨットが走る海と自然の姿を淡々と描写しています。海生たちと一緒に、読者は、海の様子や海から見える景色を思い浮かべながら、知らず知らずのうちに読み進めていくことになります。
私は、この本のおしまいのあたりで、涙がでそうになりました。海生の抱えていたコンプレックスがばかげたものであることに海生が気づくのです。
いろいろな場面で他人と比べられることが多い現代の子どもたちが、海生と同じような苦しみを背負っているならば、ぜひ、この本を読んで欲しいと思います。
そして改めて思うことは、第三者的な大人の存在の大切さです。この物語で言えば、祖父や、航海の途中で「出会う」大学生のことです。いわゆる「斜めの関係」の大人たちです。海生たちのように、多くの子どもたちが、斜めの関係の大人たちと出会って欲しいと切に願います。
航海の様子があまりにも楽しいので、海生たちのたどる道筋を地図にしてくれたらもっと楽しめるのに……と思いましたが、よくみると、後ろの見返しに、それらしきものが簡単に描かれていました。これは詳細な地図をつけて、読み手の想像力を途中で切らさないようにするための配慮なのではないかと思います。
小学校高学年以上の子どもたちにオススメの一冊です。