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絵本ナビ 書籍紹介号 |
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♪「みんなで頑張る」は本当に正しいの?
今の時代を反映したストーリー ♪どんなに明るいキャラクターでも悩みを抱えている リアルな人物描写が、物語に深みを加える ♪まさに「ラベンダー」一色! 手元に残しておきたいこだわりの装丁 ♪「夏休みすいせん図書」にも選ばれている 『ラベンダーとソプラノ』で読書感想文を書くときのポイントは…… |
「マイバラード」「翼をください」「あの素晴らしい愛をもう一度」 タイトルを見ただけで、学生時代、制服を着てみんなで歌った思い出、メロディーがバーッとよみがえって、なつかしさを感じる方も多いのではないでしょうか? そんな誰もが一度は歌ったことのある合唱曲が物語の随所に登場する児童書が昨年発売されました。 『ヒトリコ』や『タスキメシ』など大人向け小説を書き続けてきた額賀澪さん初の児童書『ラベンダーとソプラノ』です。 |
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表紙を手に取って、まず目を惹くのがラベンダーの花畑の中で歌っている少女の姿。この作品の主人公・小栗真子(おぐりまこ)。真子は全日本合唱コンクール全国大会常連校の合唱クラブに所属する6年生。アルトのパートリーダーです。
<6年生になったら大好きなラベンダー色のランドセルが似合うお姉さんになって、きれいな歌声を響かせている>
そんな夢と希望に満ちていた真子は今、不安と悩みとプレッシャーの只中にいます。
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昨年獲ることのできなかった、全国大会金賞のトロフィーを今年こそ受賞しなければいけない。
日に日に厳しくなる顧問の先生の指導、高まる不安と緊張感、後輩たちの戸惑いと不満……増える練習量に反して、真子たちの歌声はどんどんバラバラになっていきます。 「真子も責任感じてよ」部長から放たれた一言で腹痛を起こした真子は保健室へ。そこにいた少年との出会いによって、彼女は自分の気持ちに正面から向き合うことになります。
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「みんなで頑張る」は本当に正しいの? 今の時代を反映したストーリー |
今の親御さんが小中学生だった頃、部活やクラブ活動といえば「熱血指導!」「目標に向かって一致団結!」「一生懸命やれば結果は必ずついてくる!」という風潮が主流だったと思います。今も一部ではその流れが残る部分はありますが、子どもたちを取り巻く環境は変わっている、そう思わせる表現が『ラベンダーとソプラノ』の中には多数出てきます。
天性のボーイソプラノを持つ少年・朔(はじめ)は
「歌うのが好きで才能があるやつがみんな、合唱クラブでスパルタ練習したいと思うわけじゃないってことだよ」
と言い、全国大会で金賞を取ることと楽しく歌うことの違いを訴える真子に
「楽しくやることを、頑張らなくていいってことだと思っているよね」
と突きつけます。
そんな朔と、朔の参加する商店街の「半地下合唱団」のメンバーと出会い、話をしたり、一緒に練習を重ねるうちに、だんだんと真子も
「
まわりと競争して一番をめざすのだけが、えらいってわけじゃないじゃん。競争はしない、楽しくできればいい、そっちの方が気持ちがいい人だっているし、その人のレベルが低いとか、やる気がないとか、頑張っていないわけじゃないでしょ?
」と気持ちが変化。そして、その考えを
相手に伝えられるようになるのです。
今まで友だち同士のトラブルを避け、自分の思いを口に出すことが苦手だった真子が、合唱クラブの部長にはっきりと発言する場面は、ここまで物語を読んできた誰もが、その成長と勇気に拍手を送ることでしょう。
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![]() 「何のために頑張るのか」「どんな風に頑張るのが正しいのか」そんな「頑張る」ことへの問いは、大人でもよく悩んでしまう問題です。でも10代のうちにこの作品と出会い、人それぞれの頑張り方や考え方があることを知ってその中で自分はこう思う! という考えを少しでも見つけることができたなら……この読書体験から得たものはきっとこの先あらゆる場面で、自分を助けてくれるでしょう。 |
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どんなに明るいキャラクターでも悩みを抱えている リアルな人物描写が、物語に深みを加える |
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魅力的な物語に必要なエッセンスのひとつが登場人物のキャラクター。『ラベンダーとソプラノ』の主人公・真子は、まじめで練習には必ず参加する、金賞を獲りたい強い思いもあり、辛い練習も受け入れる意志がある。ただ、今の合唱クラブのやり方には疑問を感じていて、辞めたいと思う下級生の気持ちも痛いほど分かる……とても等身大の子として描かれています。
そんな真子が出会う「半地下合唱団」のメンバーは個性的で魅力的。でも、ただポジティブで明るいだけでなく、誰もが内に秘めた思いを抱えていることが物語の中で垣間見られます。
普段は明るく振る舞い、自分の歌の才能に絶大な自信を持っている朔(はじめ)は、実はそのボーイソプラノをからかわれ、クラスメイトとケンカになった過去があり、成長と共に天性の歌声が失われる日が来ることを恐れています。
中学校の合唱部を嫌い、真子にも当初きつい印象を与えていた藤野先輩は「男らしさ」「女らしさ」を押しつける学校生活に不満を感じています。
悩める子どもたちにさりげない助言で解決の糸口を示す立花書店の立花さんは生涯独身であることを決めていて、商店街で人気の「おにぎり庵」の本田奈津実さんと駒木亜矢さんは人生のパートナーであることを物語の中でカミングアウトします。
学校と家庭と習い事と友だち……そんな小さな世界しか知らなかった真子と、この本を読む子どもたちは、さまざまなバックボーンを持つ登場人物に戸惑うかもしれません。すると絶妙のタイミングでこの本は教えてくれるのです。
「
世の中、いろんな人がいるし、いていいんだってこと
」この一言は、これから先「自分とは何か」と悩みを抱えたとき、きっと救いになるのではないでしょうか。
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まさに「ラベンダー」一色! 手元に残しておきたいこだわりの装丁 |
『ラベンダーとソプラノ』とタイトルにあるように、ラベンダー色は真子の好きな色、理想のお姉さんになるための憧れの色として物語の随所に登場します。真子の服のラベンダー色のコーディネート、合唱クラブの歌声からかすかに薫るラベンダーの香り、ラベンダーシロップ入りのレモネード……挿絵はすべてモノクロで描かれているのに、私たちは次第にラベンダーの花の色が脳裏に広がっていく感覚を覚えることでしょう。
実はラベンダー色は、本文中だけでなく、本全体からその存在をひそやかに主張しているのです。
まずは、表紙をめくると表れる「見返し」と呼ばれる部分。
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ラベンダー色が印象的な見返し |
そして、背表紙の 接着面に貼り付ける「花ぎれ」という布、さらにしおりにも、ラベンダーを思わせる色が使われています。 |
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花ぎれとしおりもラベンダー色です |
電子書籍の普及により「置く場所も限られているから、本は電子書籍で買って読む」という人も多いと思います。でも、この見返しや花ぎれ、しおりのラベンダー色は、実物を手にすることではじめて気づくことができる、とてもささやかだけど、編集者とデザイナーのこだわりを感じるポイントです。 |
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「夏休みすいせん図書」にも選ばれている 『ラベンダーとソプラノ』で読書感想文を書くときのポイントは…… |
夏休み、本屋さんには青少年読書感想文全国コンクールの課題図書だけでなく、各都道府県が独自にセレクトした「すいせん図書」も多く並びます。
『ラベンダーとソプラノ』は令和5年の「埼玉県・夏休みすいせん図書」「栃木県・夏休みすいせん図書」「名古屋市の先生がえらんだ夏のすいせん図書」に選ばれました。感想文を書くためではなく、純粋に物語を楽しむために本を読んでほしいと思うのですが、せっかくこのタイミングでこの作品を手にしたならば、読書感想文の題材としてもじっくり向き合ってみませんか? 読書感想文を書くときのポイントをご紹介します。 |
@自分の体験を交えて書く 小学校高学年になると、何かしらのクラブに所属している子も多いと思います。そこでは『ラベンダーとソプラノ』のように子どもたち同士のトラブルや些細なすれ違い、誰にも言えない思いを日々抱えているのではないでしょうか。「私も真子ちゃんと同じ思いだった」「うちのクラブでもこんなことがあった」と体験を書くことで、あらすじを中心に書きがちな読書感想文から脱却しましょう。A共感するキャラクターについて書く 『ラベンダーとソプラノ』の登場人物で、特に共感したキャラクターは誰ですか? 主人公の真子? 自信家だけど繊細な面を持つ朔(はじめ)? なんでもはっきり言う藤野先輩? (大人の方は、合唱クラブ顧問の長谷川先生や真子のお母さんの方にも共感することでしょう)そのキャラクターのどんな所に共感したのか、どんな所が好きなのか、もし友だちになったらどんなことをしたいのか、想像して書いてみましょう。B物語の続きを想像して書く 『ラベンダーとソプラノ』は「半地下合唱団」初の発表会の場面でクライマックスを迎えます。 でも、真子の正念場はまさにこの後、全日本合唱コンクールまで残り1週間、クラブの雰囲気は変わらず、メンバー同士のわだかまりは残ったまま、コンクールをどのような形で迎えるのか、読者にとって一番気になるところです。この物語の続きを読書感想文に書いてみましょう。きっと読者の数だけ、物語のラストは変わるはず。読書感想文にオリジナリティを加えることができます。 |
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8月には、全国学校音楽コンクール(Nコン)の予選が各地域ではじまります。夏休みに入り、時間を惜しんで練習を続けている合唱クラブの子どもたちがたくさんいます。合唱以外にも夏休みの大会に向けて、練習がどんどん厳しさを増しているクラブもあると思います。その中には真子のように厳しい練習に疑問を感じている子もいるかもしれません。この『ラベンダーとソプラノ』はそんな子どもたちの背中をそっと優しく支えてくれる物語です。
最後に『ラベンダーとソプラノ』の作者あとがきの一部をご紹介します。
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大人になってつくづく思うのは、「みんな」にはいろんな<形>があって、「頑張る」にもいろんな<形>があることです。自分の考える<形>を絶対だと思わないで、自分ではない誰かの<形>を知ろうとしたり、理解しようとしたり、受け入れようとしたりすることが、本当の意味で「みんなで頑張る」につながるのだと思います。
<中略>
これから学校でクラブ活動や部活動を通し、「みんなで頑張る」を経験するあなたへ。今まさに「みんなで頑張る」を経験しているあなたへ。毎日の生活の中で、ふと息をするのが苦しくなってきたとき、真子や朔(はじめ)や優里や穂乃花といった登場人物たちの顔を、思い出してもらえたら嬉しいです。
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ラベンダーとソプラノ |
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税込価格:1,650円 |
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