舞台は雨上がりの森の中。風たちはきげんよく歌い、木々がゆれ、川は穏やかに流れています。向こうの方にぽつんと見えるのは、小さな船を漕いでいる「りす」。手に入れたばかりの船です。
りすはかえるに会いにいくところ。なぜなら、二人はいつも旅に行く話をしているのですが、まだ一度も森を出たことがないのです。この船があれば、いろんなことができる。そんな想像をしながら浮島に着くと…「ぽちゃん」。かえるは入れ違いでどこかに行ってしまったのでした。さびしくなったりすは船の上で眠ってしまい……。
透き通るような淡い色で描かれた、波紋や光の広がる川面に、見失ってしまいそうなほど、小さくささやかに存在しているりすとかえる。広くて知らない世界に憧れている二人だけれど、彼らの一日は今日も何気なく過ぎていき。耳を澄ませば聞こえてくるのは風たちに吹かれて小さく波打つ水の音。
「たん たぷん
たぷん たぷん たぽん」
ああ、なんて愛しい時間なのでしょう。なんて可愛らしい二人なのでしょう。こんな消えてしまいそうな世界を、作者の植田真さんは丁寧に美しく描き出します。そして、その背景には力強く見守ってくれている大きな自然の存在がしっかりと感じられるのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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