「ムキウスはびっくりして目をあげた。クラスじゅうがいきなりわっとばかりにわらいころげたのに、なんでわらったのやらさっぱりわけがわからないのだ」
教室でのこんな場面からはじまる物語。まるで現代の映画の一場面のようですが、なんと舞台は古代ローマ!
冒頭の少年ムキウスは、クラスの少年7人の中ではちょっと優等生タイプで、クサンチップ先生に言われたとおりギリシャ語の単語の書き取りをしていたものだから、まわりで何が起きたのかわからなかったのです。しかしどうやら、クラスメイトのルーフスがいつのまにか席を立って、先生のうしろに回り込み、壁に書字板をぶらさげて「カイウスはばかだ」と書きつけた様子。それを見たみんなは大喜びだったということのようです。何せ、カイウスは仲間のあいだでも「いやになるほど血のめぐりの悪いことがよくある」タイプで、お父さんがお金持ちの元老議員。悪ふざけがすぎるときがあり、今回もルーフスの背中を鉛筆でつついていたずらをしすぎたために、ルーフスが怒ってこんな騒動につながったのでした。
しかし、授業を乱されたクサンチップ先生はおおいに怒り、また誇り高いルーフスはカイウスのいたずらを告げ口しなかったために、ルーフスだけが重い罰を受けることになります。落ち込むルーフスと同情する少年たちですが、この「カイウスはばかだ」といういたずら書きが、めぐりめぐって、大人も巻き込んだミステリー風の大事件を引き起こすことになります……。
ドイツ・ハンブルク生まれの作家ヘンリー・ウィンターフェルトによる、7人の少年たちが探偵や犯人ばりにおはなしの中で躍動する児童文学作品。本書と同じようにいろんなタイプの子どもたちが出てくるSF風の『星からきた少女』や、ガリバー旅行記を下敷きにしたような『小人国(リリパット)漂流記』など、ヨーロッパやアメリカの少年少女に親しまれる作品を書いています。
父と兄はともに作曲家、本人も音楽を学び映画のシナリオをいくつか書いたという経歴だけあって(?)、読んでいると、まるで子どもたちの笑い声やかなきり声が耳に響いてきそう。要所要所の場面展開が生き生きとして、立体的です。
模範生ムキウス、騒ぎのもとになったルーフスとカイウスの他に、理屈っぽいユリウス(裁判官の息子)や、皮肉屋のプブリウス、ちょっと臆病なフラフィウス、大ぼらを吹くアントニウス。そして何より厳格なクサンチップ先生がいいキャラクターで、大事件のはじまりは、先生が泥棒にさるぐつわをかまされ(格闘の結果大きなこぶまでこしらえて)洋服だんすの中に押し込まれているところを少年たちが見つけるのですから……。わくわくしっぱなしです!
もちろん古代ローマの知識などなくても楽しめます。各章の最後に注釈が載っていますので、ここを読んで興味をもったら、古代ギリシアやローマについて想像をふくらませたり調べてみるのも、読書からより世界が広がって面白いでしょう。
何はともあれ、単純に子どもたちの探偵ごっこを追いかけるような気分で楽しめます!
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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