その日、ぼくたちは飛びたった。はるか遠くにあるという新しい世界へ、約束の地をめざして。
ぼくたちは大きくなり、もう立派に飛べるようになったのだ。
「さあ、ゆくぞ」「がんばるのよ」父と母に励まされながら、高い高い空へと出発したのです。
連なる山脈を見下ろしながら時にはかぎとなり、静かな海上では低く低くさおとなり。
昼も夜も、風の日も、くる日もくる日も飛びつづけたのです。
そして、とうとうある日…。
雄大で迫力のある自然、その中をぐんぐん突き進んでいく力強い鳥たちの群れ。
この息を呑むほど壮大な物語の舞台となっているのは、北極。
作者のあべ弘士さんが、実際に訪れた北極のスヴァールバル諸島で出会ったというカオジロガンの家族が、初めての越冬のためにする渡りの旅の様子を描いているのです。
北極海の渡りは、実に3000キロ以上にもおよび、約一ヶ月のあいだ、カオジロガンの家族たちは飛び続けるそうです。「新しい世界」をめざす長い旅というのは、私達の想像をはるかに超えた命がけの旅だというわけです。
絵本の中でのカオロジガンの姿からは、一家の揺ぎ無い意思、そして一点を目指す美しさというのが伝わってくる気がします。
彼らは何も言葉を交わすことなく、ひたすら前へ前へと飛び続けます。
激しく移り変わっていくのは、まわりの風景だけです。
その先にやがて見えてくる約束の地。
絵本を読み終えると、理由もなく心にぐっとくるこの感情。
あべさんが実際にその目で見たのはどんな風景だったのでしょう。もっともっと知りたくなってくるのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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