寒い冬がやってきて、子ぎつねがほら穴を出てみるとあたり一面真っ白な雪!夢中で遊ぶうちに、子ぎつねの手はぬれてぼたん色になっています。
「おかあちゃん、おててが つめたい、おててが ちんちんする」
そこで、かあさんぎつねはぼうやに毛糸の手袋を買ってやろうと町の帽子屋さんに向かいます。ところが明かりが見えてくるにつれ、かあさんぎつねは人間にひどい目に合った時のことを思い出し、足がすくんでしまうのです。
そこで、子ぎつねの手を片方だけ人間の手に変えてお金をにぎらせ、ひとりでお店に送り出すのですが…。
新美南吉の数ある名作の中でもとても可愛らしい印象のあるこの作品。
特に、帽子屋の戸の隙間に間違えてきつねの手を差し出してしまう場面は、その無邪気さにハラハラしながらも思わず笑顔がこぼれてしまいます。きっと帽子屋のおじさんも同じ気持ちだったのでしょうね。
「にんげんは ちっともおそろしくないや。」
大人の緊張をよそに、そんな言葉をもらす純粋無垢な子ぎつねの存在は全ての読者の心を溶かしてしまいます。
そして、にんげんのおかあさんの声を聞くうちに、かあさんぎつねが恋しくなって走って帰っていくその愛らしさ。
ふるえながら帰りを待っていた、かあさんぎつねと全く同じ安堵感に包まれて涙が出そうになります。
この温かく美しい物語を柿本幸造さんの絵で味わえるのも幸せなことですね。てぶくろを手にはめた時の嬉しそうな表情、強い愛情で結ばれた親子を包み込む真っ白な雪景色…。きっといつまでも心に残り続けることでしょう。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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