世界で話題の「文字のない絵本」。
コルデコット賞オナー賞作家アーロン・ベッカーが描く、『ジャーニー』『クエスト』につづく『リターン』。
本書で三部作が完成です。
なにやら製図台にむかって仕事をしているお父さんらしき人と、うしろで赤い凧を手にする少女。
少女はお父さんの後ろ姿を見つめ、頭には王冠をかぶっています。
少女は、お父さんの仕事場を出て、自分の部屋の壁に、赤いマーカーで扉を描きました。
描いたものが実際にあらわれる、まほうのマーカーをもつ少女。
少女がいつのまにかいなくなったことに気づいたお父さんは、赤い扉を見つけ、扉をくぐってふしぎな空間へ足を踏み出します。
桟橋から堀をゆく小舟にのって、少女を追いかけるお父さん。
たどりついた王宮には王様らしき人がいますが、なぞの兵士たちがやってきてマーカーを奪おうとし、少女たちは空へ逃げます。
黄色いマーカーから剣が生まれ、紫のマーカーから空をとぶ獣が生まれ、場面はつぎつぎ展開します。
空から海中へ。そして、壁画が描かれた洞窟の中へ……。
親子の冒険は、いつのまにかだいじなものをとりもどします。
画面いっぱいに、立体的に描かれた世界は、吸い込まれそうになる魅力があります。
個人的には海中で少女が描いた赤い潜水艇がお気に入り!
少女が見張りをし、お父さんが運転席に座るチームワーク。
水をかきまわすスクリューが泡を吐き出し、水中をすすんでいく場面にわくわくします。
それぞれ好きな場面を見つけて、イメージを思いっきりふくらませて楽しんでくださいね。
ちなみに作者のアローン・ベッカーのお母さんは天文学の教師で、その影響で宇宙の絵を描きはじめたそうです。
本書で少女がかぶる王冠は、『クエスト』の最後でもらったもの。
三部作あわせて見ることで、絵の符合する部分を発見し、より深く味わうのもおすすめです。
ダイナミックな冒険の世界にまぎれこんで、静かな興奮を味わってくださいね。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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