ページを開けば目に飛び込んでくるのは、キラキラとまぶしい光につつまれた、どこか懐かしい風景。
自転車をおす学校の帰り道、どこまでも広がる青い空、夕暮れの校庭・・・。
二人の小さな人影の見える海の場面の美しさには、思わず息をのみます。
そして、空白に浮かぶのは、心に残る言葉の数々。
「夢はおわるのではなく きっと 変わりながら続くもの」
「もう ほかの誰も こんなに好きにはならない」
「瞬きもせず」、そして「ホットロード」と聞けば、瞬時に10代の頃の自分を思い出してしまう方も多いのではないでしょうか。発売と同時に大ヒットした紡木たくさんの伝説の少女漫画です。その二つの作品から作者自ら絵と文章を選びぬき、自由に組み合わせて出来たのが『紡木たく PICTURE BOOK』なのです。
まず驚くのは、雑誌連載時に掲載されていた当時の原画をそのまま使用されているという、カラーイラストの美しさ。モノクロで馴染んでいた読者にとっても、その鮮やかに再現された場面の数々に改めて感動を覚えることでしょう。こんなにも豊かな緑が、感情をそのまま表したような空の青が表現されていたなんて・・・。
そしてストーリーにとらわれることなく、紡木さんの感覚で生まれ変わった新しい世界は、不思議と見ているだけであの頃の気持ちが蘇ってきたり、今の自分へのメッセージにも聴こえてきたり。すんなりと心の中に入ってくるのは、きっと誰もが感じたことのある感情や見たことのある風景を、紡木さんが空気感も一緒に切り取ってくれているからなのかもしれません。
コミックとはまた違う魅力にあふれたこの一冊。紡木さんのファンの方はもちろん、元のストーリーを全く知らない方にも。そして中高生の方から大人の方まで、幅広い世代の方に是非手に取ってもらいたい絵本です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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