もし、自分にそっくりの分身があらわれたら?
小学四年生の岡本栄太は、家族で出かけた未来科学研究所開催のイベント『未来科学ランド』で、来場十万人目のお客さまに選ばれます。館内でさまざまな優遇を受けた後、所長さんから小さな白い箱を渡されます。中には最新のAIロボットが入っていて、ひと月だけ貸してくれるというのです。ただし、親にはもちろん他のだれにも言っちゃだめという約束つきです。
家に帰って箱を開けてみると、小さなカップラーメンの容器みたいなものと、リモコンつきのイヤホン、説明書のような紙きれが入っていました。そこには「AI(人口知能)搭載 あなたの分身ロボットを作ろう」と書いてあります。説明に従って作業を進めると、カップから中身が飛び出てきてふくれだし、みるみるうちに栄太とそっくりに。その翌朝、分身ロボットに名前をつけてと頼まれた栄太は、「エイト」と名前をつけます。
この日から、分身ロボットのエイトが面倒なことを全部やってくれる生活が始まりました。おつかいに宿題、さらにテストの点が悪い時にはかわりにお母さんに怒られてくれます。その間、栄太はゲームをしたり、マンガを読んだり、ごろごろしてすごす。なんて理想的なんでしょう!
ぼくにそっくり。そしてぼくよりも優秀なエイト。そのうち、エイトは代わりに学校にも行ってくれるのですが、いざ休んでみると、やることがなかったり、正体がばれたりしていないか心配で仕方がありません。さらにTVで「人間がロボットに支配される、そんな映画のような時代がやってくるかもしれません」と言っているのを聞いて、栄太は自分を乗っ取られるのではないかとだんだん不安になってきてしまいます。
なにか面倒なことがあった時、もし自分の身代わりがいたらなあ、なんて一度は考えたことがあるでしょうか。でもはじめは良くても、自分がふたりもいたら困ることがいろいろ出てくるかもしれませんね。
はたして栄太とエイトはこの後どうなったのでしょうか。
なによりワクワクさせてくれるのは、カップラーメンの容器で自分の分身を自分で作る場面。材料の中に髪の毛が一本必要というあたりはなんとも本格的です。お話の後半にはいくつかのサプライズもあり、ドキドキしたりじーんとしたり、さまざまな感情と出会わせてくれるでしょう。
また、AIロボットと人間がどう関わっていくのが良いか考えるきっかけにもなるかもしれませんね。
こちらのお話のジャンルはSF(空想科学小説)といって、この本は、第35回福島正実記念SF童話賞大賞を受賞されており、はじめてのSF世界への入口としてもおすすめです。同じようなお話をもっと読みたいと思ったら、同賞を受賞した他の作品を読んでみたり、ロボットが出てくるお話を探してみるといいですよ。小学四年生ぐらいからおすすめしたい作品です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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