あなたにとっての特別な一冊は、どんな本ですか? その本に出会えたときの気持ち、覚えていますか? この絵本には、その瞬間が甦ってくるような、なつかしくて温かい気持ちがぎゅっとつまっています。
図書館に並ぶ一冊の本。大きなきのこと女の子の絵が表紙に描かれたうぐいす色の本は、たくさんの子どもたちに読んでもらって、とても幸せでした。でも、何年もたって古びてきた本は、忘れ去られ、めったに読まれることもなくなりました。本は悲しい気持ちで、自分が忘れられてしまったことに気づきました。
そんなある日、小さな女の子・アリスが、その本を手にとり読みはじめます。そして、その本はアリスにとってかけがえのない大切な存在となっていくのでした。
しかし、次の週、もう一度借りようと思っていたその本を、図書館に忘れてきてしまったのです……。
アリスがうぐいす色の本をどういうふうに読んだか、どんなふうに感じたか、そのひとつひとつのエピソードが、繊細な美しい絵とともに描かれ、きらきらする気持ちを思い出させてくれます。
「もう寝る時間だよ」と電気を消されても、月明かりのもと、おふとんの中でこっそり読みつづけたこと。その本がある、続きが読めるということが、たまらなく幸せだったこと。ひとときも手ばなしたくなかったこと。本を見なくても、物語の結末を覚えていたこと。
ね、このアリスの姿、お気に入りの本に出会ったときの、あなたにそっくりじゃないですか?
紆余曲折の末、いったん離れてしまった本と女の子が再会をはたしたとき、図書館のボランティアの女性がいう言葉がとても印象的です。
「この本は、ずっとあなたをまっていたのね」
「じつはわたしもね、子どものころ、この本がいちばんすきだったの」
本をつくるとき、本作りにたずさわる誰もが「この本が、時間も場所もこえて、誰かの特別な一冊になりますように。必要としている人に届きますように」という祈るような気持ちで作ります。まさにそれが絵本の一文に書かれているなんて! この絵本に出会い、改めてそんな本を作りたい、という気持ちがかきたてられました。
(光森優子 編集者・ライター)
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