いもとようこさんの「日本のむかしばなし」シリーズ。
月が美しい季節にぴったりの一冊です。
昔あるところに、うさぎときつねとさるが仲よく暮らしていました。
ある日、3匹は、道ばたで倒れている老人を見つけました。
「なにか…… たべものを……」
弱々しく老人に言われ、あわててさるは柿の実をとりにいき、きつねは川で魚をつかまえてきました。
ところがうさぎは何も見つけてくることができません。
毎日食べ物を探しに出かけるのですが、老人にあげるものが見つからないのです。
だんだん元気がなくなってきたうさぎは、ある朝、ついにきつねとさるにこう言います。
「きょうは わたし、たべものを きっと もってくるわ。
だから、たきぎを いっぱい あつめて いきおいよく ひを たいて まっててね」
しかし何ももたず帰ってきたうさぎは、勢いよく燃える火に身をおどらせ……。
動物たちの表情がいじらしく、あたたかいタッチの絵が印象的。
「こんな ちいさな からだですが、どうぞ めしあがってください」と、うさぎが火にとびこむ場面には衝撃を受けますが、“何もあげるものが見つからない”うさぎの悲しさ、そして「うさぎちゃん、なんてことをするんだ!」と涙を流すきつねとさるの姿に、絵本を読む子たちは、きっと自然に心を寄り添わせるのではないでしょうか。
古来、日本では、おつきさまにうさぎが住むと言われてきました。
夜空を見上げると、たしかに、まあるい月に浮かぶ黒い影がうさぎのようにも見えます。
「どうして月にうさぎがいるの?ってきかれたら、このお話をしてあげましょう」という作者からのメッセージがこめられた絵本です。
自らの体を捧げ老人を助けようとしたうさぎを、神様が天の月に住まわせたという、意外と知られていないお話。
月とうさぎ、“十五夜”の由来がわかると同時に、日本のむかしばなしの心を感じることができる絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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