じっとこちらを見つめている、大きな目をした子どもの表情が印象的な表紙。よく見れば、ほら、おでこから角が生えています。
『羅生門』といえば芥川龍之介の小説が有名ですが、角の生えたオニは出てこなかったはず・・・。そう、この作品は芥川龍之介の『羅生門』ではなく、日野多香子の『羅生門』なのです。
舞台は今から千年以上前の平安時代、さびれはてた京のみやこの羅生門に命からがらたどり着いた、幼子ゆきまろと母。やむなく母に置き去りにされたゆきまろは盗人の親分に拾われ、生きるために盗みを働くようになります。
盗人となったゆきまろは、親分と仲間が役人に捕らえられて処刑されると、羅生門に住み着いてひとり盗みを続けます。悪いことをしているという心の痛みももはやなくなったある夜、池に映った己の姿・・・二本の角を持つ、恐ろしいオニの姿・・・に驚きます。もはや持っている資格はないと母の形見も捨て、ゆきまろの心はさらにすさんでいきます。いつしか、羅生門には恐ろしいオニが出る、と人々が噂しあい、近づく人も減っていったのです。
そんなある冬の夜、羅生門の柱のかげで腹をすかせて獲物を待っていたゆきまろの前に、ひとりの老婆が通りかかります。襲いかかるゆきまろに対して老婆がしたこととは・・・。老婆とのやりとりを通じて、ゆきまろに人としての心が蘇ります。
オニは最初からオニなのではない、悲しい身の上に、やむなくオニになる。ゆきまろが人の心を失いオニになっていく様に、そんなせつなさを感じずにはいられません。それでも悲しみや嫌な想いをさほどは感じずに、物語の主題に引き込まれていくのは、物語にぐっと重みを添えながらも親しみが湧くイラストのおかげでしょう。子ども達は、大きな目をしたゆきまろの姿に自分を重ね、悲しくはじまった物語の希望に満ちた結末に安堵し、強く生きていくための種を得ていくことでしょう。大人になってからも思い出す絵本の一冊となりそうな、そんな骨太の絵本。本棚に加えたい一冊です。
(金柿秀幸 絵本ナビ事務局長)
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