えなはもう、海なんか見たくありません。
えなのうちも、おかあちゃんも連れていってしまった海。
なのに、懐かしくてたまらなくなる時があります。
そんな時、えなはばあちゃんちの裏山に登って空を見上げるのでした。
ある日、裏山で出会った不思議な少年がえなに「月の貝」を手渡します。
眠るときにそれをにぎっていると、手の中で細い光がきらめきます。
その光は毎日形を変えていき、どんどん丸くなって、とうとう満月に。
その晩、えなは不思議な夢を見たのです。そこにいたのは、残してきた大事な人を心配する、たくさんの人たち。
えなの前にも…。
東日本大震災発生から2年が経ちました。
失われた多くの命、そして残された遺族の方たち。
今も悲しみを前に、心の葛藤を繰り返しながら、懸命に生きているその人たちの心に少しでも寄り添うことができたら。
作者の名木田恵子さんの想いから生まれたのがこの作品です。
主人公のえなはまだ6歳の少女。そんな小さな心にも、自分が何もできなかったことを悔やんだり、生き残ったことを後悔したり、容赦ない胸の痛みが襲ってきます。でも、先にいってしまった母親も同じようにえなを思い、自分らしく前に歩んでいってほしいと願っているのでは…。思いを伝えるために託されたのが、強く握りしめた手の中から浮かんだ小さな希望の光「月の貝」。
こみねゆらさんの幻想的な世界は叙情的で美しく、何度読んでも心が落ち着いてきます。きっと、えなの心情やえなを取り囲む周りの人たちの心情を丁寧に繊細に描き出しているからなのでしょう。
「えなちゃん、もう悲しまないで。」
幸せだったゴンの言葉がたくさんの人の心に染み込んでいきますように…。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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