中国の内モンゴルの大草原に、馬頭琴(ばとうきん)という、やさしくうつくしい音を奏でる楽器があります。
馬頭琴にはひとびとの心をせつせつと打つ、むかしから言い伝えられてきたお話がありました。
これは、モンゴルに伝わるそのむかし話を、日中両国で活躍する王敏(ワン・ミン)が忠実に文字におこし、内モンゴルの大草原で生活した経験をもつ季暁軍(リ・ショウジゥン)が絵にした、物語絵本です。
夕暮れの草原で、うまれたばかりの白い小さな馬をみつけた、ひつじかいの少年、スーホ。
だれもいない草原にとりのこされ、ぶるぶるふるえていた子馬を、スーホはおばあさんと暮らす家につれてかえります。
スーホはいっしょうけんめい世話をし、子馬はやがてたくましく大きくなりました。からだは雪のように白く、かけだすと銀色の星が空をとんでいるような、りっぱな馬へ。
ある年の春、領主のワンイェーが主催する競馬大会に、スーホはだいすきな白い馬といっしょに参加することにしたのですが・・・。
優勝したにもかかわらず、領主に不当な扱いを受け、だいすきな馬までうばわれてしまうスーホのくやしさ。
傷を負いながらも領主のもとを逃げ出し、スーホのところまでもどってくる白い馬の心。
切れない絆をもつ、馬と少年のお話は、わたしたちにどんなことをおしえてくれるでしょうか。
季暁軍(リ・ショウジゥン)が描く流線形のような馬のかたちは、草原を風のようにかける馬を身近に感じているからこその表現なのかもしれません。中国・内モンゴル自治区の大草原生まれの画家の感性を、どうぞ味わってください。
このむかし話は『スーホの白い馬』や『スーフと白い馬』、『少年(スーホ)と白い馬(オルホン)』など、いろんなかたちで日本で紹介されているので、読み比べてみるのもまた味わいが深まるかもしれませんね。
1990年に初刊行され、20年以上読み継がれた『モンゴルの白い馬』の新装改訂版です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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