黄色い花に囲まれた風景の中を駆けていく四姉妹の美しい影。さわやかな夏の空気が今にもあふれ出しそうな美しい表紙のこちらは、四姉妹を待ちうけるきらきらした特別な夏休みの出来事を暗示しているかのよう。
ペンダーウィック家の四姉妹とお父さん、それに愛犬のハウンドは、毎年借りていた別荘が売りに出されて夏の滞在先を失い、途方にくれます。そんな中、なんとか見つけ出した滞在先へ向かうと、そこは予想をはるかに超えるほどの広いお屋敷でした。噴水や花壇や大理石の像があるすばらしい庭の中にある広いコテージで、ペンダーウィック家は8月の3週間を過ごすことになります。この夢のようなお屋敷で、どんなにハイソでさわやかな夏の日々が描かれるのだろう…とはじめのうち想像していたら、これが大間違い。着いた早々、秘密の抜け道でお屋敷の息子のジェフリーと正面衝突したり、オーブンをかけっぱなしにして火事をおこしそうになったり、さらに雄牛を興奮させて襲われそうになったり…と命からがらの事件がつぎつぎに起こります。さらに、気難しいお屋敷の主ミセス・ティンフトンとのやりとりも加わり、最後までハラハラさせられっぱなし。けれどもどんな困難にぶつかっても通称「ムープス」という集会で姉妹が結束して解決に向かう姿は見事。とてもたくましいのです。
十二歳の長女ロザリンドはしっかり者、十一歳のスカイは短気でトラブルメーカー、十歳のジェーンは作家を目指していて常に頭の中が物語でいっぱい、まだ四歳のバティは恥ずかしがり屋で動物が大好き、そんな個性豊かな四姉妹が生き生きと魅力的に描かれていきます。お屋敷で出会う登場人物は心優しく親切な人もいれば、震え上がるほどこわい人、意地の悪い人などさまざまですが、こちらのキャラクターも個性豊かに描かれ、お話を一層楽しく盛り上げてくれます。中でも四姉妹のお父さんの存在がとても素敵です。常に公平で人間味溢れるお父さんは、いつも四姉妹の味方で、お母さんが天国にいても四姉妹がこんなに明るく元気にいられるのは、このお父さんがいてこそと思わせる安心感があります。
かけがえのない友との出会い、はじめての恋、屋敷の息子ジェフリーの勇気、読む人によって、どの出来事を「夏の魔法」ととらえるかは自由に感じ取ってほしいところですが、その中で、喜んだり、夢見たり、悲しんだり、傷ついたりする感受性豊かな少女時代のひと時もまた魔法のような時間なのではないでしょうか。そんなきらきらした時間がぎゅっと詰まったこちらのお話は、十歳か十一歳の頃には読みたい本を全部読みつくしていたという作者ジーン・バーズオールが自ら書いたはじめての本だそう。本が好きな小学5、6年生から中学生ぐらいの年頃の女の子と大人の女性の方に特におすすめしたいお話です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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