「むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが暮らしていました」
定番の語り出しではじまる物語。
ところが中身まで定番とはいきません。
この昔話のおじいさんとおばあさんは、土を焼いて土偶を作り、それを子どもの代わりにしようとしました。
ふたりの願いが通じたのか、できあがった土偶はなんと立ちあがり、言葉まで話し出したではありませんか!
「はらへった! はらへった!」
さわぐ土偶におばあさんは食べ物を与えますが、いっこうに満足する気配がありません。
村中の食べ物を食べ尽くしてもまださわぎ続けます。
しまいにはついに、おじいさんとおばあさんを…
え!?まるごとごくり!?
それでも満足しない土偶は、食べるものを探して村に出ていきます。
いったい村はどうなってしまうのでしょう?
海外の良質な児童書を発掘し、子どもたちへと届けている翻訳家の小宮由さん。
本作はそんな小宮さんが厳選した児童書シリーズ「こころのほんばこ」の5冊目です。
おじいさんとおばあさんが人形を作ると命が宿り、それがたいへんな食いしん坊である―
日本の昔話「力太郎」をほうふつとさせる導入ですが、この土偶は大食いすぎる!
おじいさんとおばあさんが丸呑みにされてしまってから先、土偶はとどまることを知らずにいろいろなものを丸呑みしていきます。
そして、まるで自慢するように、何を丸呑みにしたかを小気味の良いリズムで声高に語ってみせるのです。
会うもの会うものにそれをするので、土偶の腹が膨れるにつれて、歌うようなセリフもどんどん長くなっていって…
それが一見おそろしくも思えるこの物語を、コミカルで親しみやすいものにしていて、なんともおもしろい味わい。
声に出して読んも楽しい一冊です。
つるりつるりと気持ちのいいくらいに次々に村のものを呑み込んでいく土偶。
彼を止める術はあるのでしょうか?
(堀井拓馬 小説家)
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