一面深い雪に覆われた夜の森。凍りつく寒さの中でひとりぼっちで雪の巣穴にうずくまっているのは野うさぎの子です。
恐ろしいきつねに襲われて逃げた夏のあの日から、おかあさんは戻ってこないのです。その時から、野うさぎの子は、ひとりで草を食べ、ひとりで眠りました。雪が野うさぎを寒さと危険から守ります。
しんしんと夜が更けていき、果てもなく暗い森に雪の白さだけがどこまでも広がっています。夜の雪の森はひっそりと静まりかえっています。その時…!
野うさぎの子が天敵であるキツネやフクロウの追跡から必死で逃げ、振り切って雪山のてっぺんにたどりついた時に迎えてくれたのは眩いばかりの夜明けのひかり。雪は輝きを取り戻し、森じゅうのとりがさえずりはじめます。野うさぎの子は体中に力がみなぎってきます。うしろ足で思いっきり強く雪をたたきます。とん!とん!生きる喜びのばくはつです!
緊張に張り詰めた冬の森の一晩の出来事。静かにひっそりと繰り広げられる生死をかけた動物たちの戦い。夜が明けた時の美しさと生きる喜び…。寒い北の大地でひとりたくましく生きる野うさぎの子を主人公に、この大自然の厳しさと美しさが凝縮した物語を静かに力強く描き出しているのはあべ弘士さんの絵。忍び寄るキツネとフクロウの恐ろしさには思わず息をのみ、明るくなっていく朝の景色に心の緊張が溶かされていきます。
どこまでも深く大きな森の中、唯一白い雪を味方にして、生きる喜びを胸に駆け抜けていく野うさぎの子の頼もしい姿。力強く生きてほしい、子どもたちの姿にも重ねて願わずにはいられなくなるのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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