「あーあ、きょうはついてない。」
お母さんにおつかいを頼まれちゃった。
ぼくがゆううつなのは、妹が一緒に買い物について来るってこと。
妹はいつも「妖精」だの「お姫さま」だの“できそこないのおとぎばなし”をつくってぶつぶつ言っている。今日だってそう。
「ドラゴンがこびとの国から魔法の石をぬすんだ」「ほら、あそこにドラゴンが逃げていく」
なんて言いだした。おかげで車にひかれそうになったり、お店の人に謝らなくちゃいけなったり、どうかしてるよね。ほんと、笑っちゃう。
ああ、こんなお兄ちゃんの困り顔。よく見かけるよね。
妹って自分勝手だし、すぐ泣くし、つまんなそうな遊びしているし。
でも可愛い妹はほっとけない。だからお兄ちゃんは結局せかせか、おろおろ、困り顔。
でもね。この「できそこないのおとぎばなし」っていうのは、案外デタラメばかりでもないみたい。あれれ・・・ぼくもおかしくなってきちゃったのかな?
お兄ちゃんの気持ちと妹の紡ぎ出す世界。読み進んでいくうちに、だんだん二つが交差していって、読んでいるほうも不思議な気持ちになってきます。日常のすきまに生まれる、こんなさり気ないファンタジー、素敵です。
いとうひろしさんには子どもの見ている世界がわかっちゃうのでしょうか、ね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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