たのむ。
少しでいい。
ほんの少し、ひとりにして。
放っておいて……
ヘトヘトに疲れて、トイレに逃げこむ、ひとりの少年。
コンコン! コンコンコン!
連打されるドア。
「せんせー、ふうたくんがうんちしてる〜」
そしてひびく、無邪気な“天使”の声!?
少年の名は斗羽風汰、中学2年生。
ただいま『エンジェル保育園』にて、絶賛職場体験中!
第66回青少年読書感想文全国コンクール中学校の部課題図書。
軽い気持ちで、保育園を職場体験先に選んだ少年。
彼が過ごす、イメージとはちがい違いすぎる5日間とは……!?
主人公の風汰は、敬語も使えないし、すぐ調子にのるし、いいかげんだし……
先生からしかられても、ノラリクラリとヘリクツばかり。
髪が長すぎると注意されれば、
「目にかかってないからセーフだもんね」
と、前髪を噴水のように結わいてくるしまつ。
その、ふまじめな言動のせいで、担任の先生からも頼りなく思われています。
軽い気持ちで選んだ保育園という職場体験先でも、想像とはまるで違う忙しさに目をまわし、「マジミスった。なんだってオレ、こんなとこ選んじゃったんだろっ」
と、深いため息……
ところが、そんな風汰というキャラクターの、なんと魅力的なことでしょう!
言葉遣いはガサツだけど、性根はやさしく、素直でまっすぐな性格の風汰は、エンジェル保育園の子どもたちに、すぐに気に入られます。
「ふざけた髪型も、だらしない返事も態度も、アホさ加減も、これまで来た中学生の中で群を抜いている。でも、子どもたちはあの子を受け入れている」
彼のふまじめな性格だって、誰かにこうするべきだと教え諭されたコトに身を任せるよりも、なにがほんとうには正しいことなのかを、自分で考えようという姿勢の裏返し……なのかも?
引き取り手のいない、捨てられた子犬。
雨の降る夜にひとり、外で母親を待つ4歳の男の子。
職場体験中の5日間に、風汰にはさまざまな出会いがおとずれます。
それらを通して彼が立ち向かうことになるのは、だれかを守り、育てるということの意味と、そこにある葛藤。
中学2年生の少年には、重い問いです。
それでも、自分の力で必死に答えを探す風汰の不器用な姿に、いつのまにか全力でエールを送っていました。
また、保育園の子どもたちとふれあう中で風汰の感じる、率直なおどろきやとまどいもみどころ!
2歳と3歳のあいだにある、たった1年の時間に、「赤ちゃん」と「子ども」をへだてる決定的な差を感じたり――
とれたてのキャベツを見て「おやさいすき!」とよろこぶ子どもたちに、「昨日の給食で残してたじゃん、野菜……」と心の中でツッコんだり――
「わかるわかる!」と、ほほえましく、なんども笑わせてくれます。
斗羽風汰が出会うひとりの天使――彼が背負う、あまりに重い“にもつ”とは?
そんな天使のために、自分ができることはなにか――風汰が出した答えとは?
保育の世界にとびこんだ少年の、奮闘と成長。
笑って泣ける、オススメの一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
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