野瀬小学校、六年一組学級委員の小野寺理子は、「嘘」を憎み、「真実」を愛する、正義感の強い女の子。彼女の周りでは最近、ネットを通じて拡散された嘘にまつわる、様々な事件が起きていました。その犯人に心当たりのある理子は、「嘘つき写真館」と呼ばれる、ひと気のない建物に踏み込みます。
そこには、ネットを通じて様々な嘘を撒き散らしている少年がいて、依頼をすれば、様々な加工画像や動画をつくってくれるという噂があったのです。
「八吹錯! 金輪際、嘘をつくのはやめなさい!」
嘘つき写真館で出会った少年、八吹錯は、理子の叱責にも動じず、ひょうひょうとして、こたえます。
「なんでだよ、やめないよ。楽しいじゃん、嘘ばらまくのって」
バカにしたような錯の態度に、理子は怒り心頭!人を困らせる嘘はいけないと、さらに声を大きくするのですが‥…。
「いいね、理子、才能あるよ、『嘘の拡散者』の。……知ってる? 嘘を広めるいちばんの力の源って、『正義』なんだ」
しかし理子は、学校で起きた嘘にまつわる事件の解決を求めて、錯のもとを何度も訪れることに。なんと錯は画像加工の他に、「嘘吹き」という、嘘を見破ることのできる特殊な能力を持っていたのです——
著者は、「言葉屋」シリーズ(朝日学生新聞社)で知られる久米絵美里さん。
「言葉屋」シリーズで言葉の大切さを描いた著者の新作は、「ネットと嘘」についての物語です。
事実か嘘かを判断する目を養い、発信する情報に責任を持つことが大切だと信じる理子に対して——
「真偽を判断することばっかにとらわれてたら、人を見失う」
錯はそうして、真偽の判断ばかりでなく、「自分がなにを信じたいのか、どうしてそれを信じたいのか」について考えることが大切だと返します。
軽い気持ちで発信した嘘が、またたく間に拡散していくのを、眺めることしかできない無力感——
何人もの見ず知らずの大人から、感情をあらわにした言葉をぶつけられる恐怖——
大人でも背筋の凍るような状況から幕を開けるこの物語は、終盤にいたり、意外な真実の数々を怒涛の勢いで明らかにしながら、嘘と真実のあるべき姿について、読者に問いかけます。
なぜ理子は、真実にこだわるせいで友人から疎まれていると知りながら、こんなにも嘘を憎むのか?
なぜ錯は、嘘を見破ることのできる特別な能力を持ちながら、こんなにも嘘を愛するのか?
嘘と真実とがない混ぜになり、その境界さえあいまいな世界、インターネット。
その中で、すさまじい速度で進化する、膨大な嘘、嘘、嘘……
「新時代の嘘」とその付き合い方について深く切り込んだ、大人も必読の一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
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『最近、八吹写真館に入りびたってる八吹錯っていうやつが、動画とか画像の加工が得意で、頼めばなんでも作ってくれるらしい。それで今、このあたりの学校の子が、次々と頼みに行っているらしくて、だから最近、八吹写真館は嘘つき写真館って呼ばれてるらしい』
小野寺理子。野瀬小学校、6年1組、学級委員。
クラスのSNSで出回ったデマから風紀を正そうと、理子は「フェイク職人」である錯の元を訪れる。ところが、錯は、フェイク画像にふっ、と息を吹きかけてみせると……。
ネットの存在により高まる嘘の拡散力。なにが本当でなにが嘘か。それは、真偽を見抜く瞬発力より、自分がなにを信じ、守りたいのかという判断力――いま、この時代を生きる子ども達に考えるきっかけをあたえる1冊。
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