世界の名作の中から12の作品をセレクトした「ひきだしのなかの名作」シリーズ。
一つ目は、オスカー・ワイルド作『しあわせなおうじ』です。
町を見下ろす丸い柱の上に、金色の王子の像が建っていました。
目には青いサファイヤ、腰に下げた剣のつかには赤いルビーがはめこまれ、体を金でおおわれた王子。
町の人は「おうじさまは、なんて うつくしいのだろう!」と言うのでした。
しかし仲間とはぐれた一羽のつばめが王子の足元に舞い降り、つばめは王子の涙に気がつきます。
「あなたは、どなたですか?」
「わたしは、しあわせな おうじだよ。」
「では、なぜ、ないていらっしゃるのです?」
「この まちの ひとたちの なやみが よく みえるので、なかずには いられないのだ。」
人々の悲しみに心をいためる王子は、つばめにたのみ、貧しい人の元へ自分の体に埋め込まれた宝石を届けます。
病気の男の子のところへルビーを。屋根裏の若者へサファイヤを。
目が見えなくなるのも、自分がみすぼらしくなるのも構わず……。
原典に忠実な再話文、それでいて親しみやすいきれいな日本語が、読み聞かせにぴったりです。
南へ旅立とうとしていたつばめは、王子のそばを離れられず、とうとう凍えて死んでしまいます。
つばめも王子も最後は死をむかえます。
その無情感と悲しさ。同時に、個人の愛情を越えた、大きな愛情があることを教えてくれます。
1888年、当時34歳のオスカー・ワイルドがはじめて出した童話集の中に収められたお話。
詩人、小説家、劇作家としてワイルドは19世紀末のヨーロッパ文学界で有名であり、多彩な文筆活動をしました。
中でも悲劇「サロメ」は有名です。
そんな彼が残した作品群の中でも長年愛されてきた童話、『しあわせなおうじ』。
こみねゆらさんが繊細なタッチで描く、静謐な銅像の王子の表情と、愛らしいつばめをごらんください。
幼いときに、ぜひ一度味わってほしいお話です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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