小学生六年生のタケルには、長らく隠してきた秘密があった。
でも、もうごまかせない。
じつは、おれ——
右と左の区別がつかないんだ……!
東京からの転校生、実里が右手に描いてくれたミミズクを目印に、こんどこそ左右を覚えようとするタケル。
いつも早足で歩き、めったに笑わず、思ったことをズケズケと口にする実里は、クラスの女子たちとすこし、雰囲気がちがう。
すこしおかしなところもあるけど、なんだかかっこいい実里のことが、タケルは気になってしかたない。
そんななか、タケルの右手のミミズクにふしぎなご利益があるというウワサが立って——
「このミミズク、なんかパワーあるみたいなんだよね。だから、また描いてよ!」
右手にミミズクを描いてもらっているうちに、タケルは実里の意外な一面を知っていく。
そして、彼女がおおきな傷と秘密を抱えていることも——
第1回フレーベル館ものがたり新人賞大賞受賞作!
北の街の牧場。
夏の日の草原。
変わった転校生と、淡い恋心。
そして、実里が抱える小学六年生にはいささか重いその秘密も、すべてひっくるめて——
どこか懐かしく、そして冒険めいたワクワクに満ちているこの物語の空気が、愛おしくてたまりません!
店の中で父親が他の客を怒鳴り散らし、居心地が悪そうにしているその子どもにソフトクリームを差し出すタケル。
どうしていつも早足で歩くのかとクラスメートにからかわれて、「足に聞いて」と答える実里。
主人公とヒロインふたりの、まっすぐで健やかなキャラクターが特にみどころ。
後半に少し重たい展開がある本作ですが、タケルと実里のキャラクターのおかげで、さわやかな読み心地はくずれません。
また、重要な場面での色彩の印象的な描き方も本書の魅力のひとつ。
なだらかな地平を染める、夕焼けの赤。
空とのコントラストがまぶしい、草原の緑。
本書を読んでいるあいだずっと、みずみずしくあざやかな色合いが目の前に輝いて見えるようでした。
右手のミミズクからはじまる、ひと夏の物語。
さあ、青春補充しましょう!
(堀井拓馬 小説家)
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