松浦武四郎は、1818年生まれ、日本全国各地を旅し調査した幕末の探検家です。なかでも、28歳から6回にわたって十数年、蝦夷地(現在の北海道)の調査を行い、まとめられた沢山の日誌や地図、著作は今でも貴重な資料として残っています。アイヌ民族の文化と苦難を記録し、伝え続けた人物でもあります。この絵本は、その生涯をかけた探検の旅を描いた一冊です。
詳細に描かれた地図と北海道の歴史。たくさんのことを学べる絵本ですが、純粋に探検記としての面白さにもひきこまれます。松浦武四郎の出会ったアイヌの人々の記録、助けてもらいながら旅をする場面は、ワクワクの連続!
熊退治の名人がどんな豪傑かと思って会ってみると小柄な普通の人だったという話。アイヌの少年に、実際に会う和人の婦人が「美人画」とあまりに違うので確かめたいと言われ江戸へ連れて行くことになった話。月夜の浜でトンコリという楽器を弾きながら歌い、アイヌの苦しみを伝えてくれと訴える老人。本土では見られない風習や動物、農業やオヒョウ(巨大カレイ)の漁、織物の話、そして過酷な旅路・・・。興味深いエピソードが満載です。
調査の中で、武四郎は、北海道に住むアイヌの人びとが自分たちのことを「カイナー」と呼び合っていることを知ります。「カイ」は「この国(大地)に生まれたもの」、「ナー」は敬称です。現在、武四郎は、「北海道の名付け親」としても知られていますが、明治になって武四郎が名づけた「北加伊(カイ)道」(北のアイヌの国)という名前には、アイヌの人びとへの思いと敬意がこもっていたのですね。今も北海道の地図に残る多くの地名は、武四郎の記録をもとにしたもの。アイヌ文化のあかしです。
松浦武四郎の物語を絵本にしたのは、関屋敏隆さん。型染版画で描かれた、北海道の自然・人・暮らしが、当時の息吹を力強く生き生きと伝えてくれます。関屋さんは大学生の頃からサイクリングによる野宿を楽しみながら日本中をスケッチしてまわってきたという経歴の持ち主。そんな関屋さんにとって、武四郎は「旅の大師匠」なんだそう。シーカヤックで知床半島めぐりをした際は、丸木舟で探検した武四郎の苦難の舟旅に思いをはせ、「武四郎のこと」を多くの人に知ってもらいたく、武四郎の絵本づくりを決意したのだそうです。
「よくぞ、多くの宝物を世にのこしてくれました。その宝物を絵本のなかでよみがえらせまするぞ。必ずや」(あとがきより)
歴史に興味のある小学生、そして大人の方にもおすすめの絵本です。北海道を訪れる機会に読めば、旅が深まりそうですね。
(掛川晶子 絵本ナビ編集部)
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