漆黒の色がうつくしい、画集のような大型絵本です。
登場するのは、斜視を気にして望遠鏡を片時も手放さない女の子、「チコ」。帽子を目深にかぶり、望遠鏡をにぎりしめるチコの表情はほとんど読み取れません。「望遠鏡」が連れてきた空間で、チコは「星」に会います。正装し手袋をはめた紳士で、顔の部分が白く光り輝く不思議な存在。天文や空間について哲学的な対話が織り込まれた、時空を旅するファンタジーです。
「光って いちばん速いんでしょ?」と問うチコに、星は言います。「宇宙にはもっと速いものがあります」「思考速は 思いをめぐらす速さのことです。想像する力 これは 光速でも追いつくことができません」。
「宇宙の果て」を「思う」ことができるかどうかと、星はチコにたずねます。できるなら、「宇宙の果て」に思考速が追いついたことになると。
思うことに速さがある――。驚きとともに、壮大なチコの旅(まさしく宇宙遊星間旅行)を、読者は一緒に味わうことになります。
本書は、作・中江嘉男さん、画・上野紀子さん。名前を聞いてあれっと思いませんか。そう、あの親しみやすい「ねずみくんのチョッキ」のシリーズのお二人なのです。1981年に初版が刷られましたが、のち絶版。復刊してほしいという声が根強く寄せられ、待望の復刊となりました。
おなじチコが登場する本に『扉の国のチコ』があります。お二人は『扉の国のチコ』を日本におけるシュルレアリスムの大家、瀧口修造に捧げ、『宇宙遊星間旅行』に登場する星の男も、瀧口氏を思って描いたそう。氏への深い思い入れがこの2冊ににじんでいます。
私たちだれもが、一瞬のうちにすぎていく過去にしか存在できず、宇宙の中で猛スピードで移動している。本書にひそむたくさんのメッセージに、生きていることの謎を根底からゆさぶられます。哲学的な問いかけが、ファンタジーとして昇華しているたぐいまれな絵本です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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