静かに始まるあおい世界。
それは真夜中に走る列車の中であり、読者にとっての旅の始まりでもあります。
光のつぶがひとつ、ふたつ現れたかと思うと、通りすぎていく真夜中の街。
更に今度は寝静まっている家々の横を通りぬけ、古いレンガの橋を渡ると、
そこは懐かしいくにの入り口に…。
ああ、なんて美しい。
深くあおい風景に浮かびあがっているのは、まるで夜の世界からにじみ出てきたような、
柔らかくきらめいている様々な光の色。
ページをめくりながら、じっと見つめながら、何度でもため息が出てしまいます。
この絵本のテーマは帰郷。
長い夜の時間をぬけてたどりついた故郷で迎えてくれるのは、風景だけではありません。
言葉は少なくても、詩情豊かに語りかけてくれる物たち。
それらのあたたかなぬくもりを思い浮かべながら迎える朝、そこにはずっと思い続けていた変わらない空気が待っているのです。
nakabanさんの絵の、どこかを特定できないような風景、何色か決め付けられないような色彩がとても好きです。
誰かを思う時、どこかの場所を思い浮かべる瞬間、この絵本を開いて気持ちを重ね合わせてみたくなります。
そして、そんな時間を共有したい人に贈りたくもなりますね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
続きを読む