ここは、お料理上手なダダさんのおうち、そのお台所の食器棚――
そのなかには、おいしいお料理ができるのを今か今かと待っているものたちがいました。
それは、どんぶり、お椀に、お皿たち!
かれらのたのしみは、自分にもりつけられたごちそうを、こっそり味わうことなのです。
そこにやってきたのは、ちいさなちいさな、まめざらちゃん。
ちいさなピンクの花もよう、形もまるでお花のような、とってもかわいいお皿です。
どんなお料理を味わうことができるのかと、ワクワクしていたまめざらちゃんでしたが――
「か、か、からーい!」
わさび醤油に、お酢ラー油、それからピリ辛やきにくのタレ!
「きみほどちいさなお皿は、『しょうゆ皿』って呼ばれるくらいだからなあ」
ほかのお皿たちの言葉に、まめざらちゃんは粉々に割れてしまうかと思うくらい、悲しみました。
そんなある日、ダダさんが結婚!
台所に立つ結婚相手のピピさんを見て、どんなお料理をつくる人なんだろうと、お皿たちはドキドキ。
「わたしはしょうゆ皿だもの。どんな人でも、関係ないわ」
しょんぼり、いじけるまめざらちゃんでしたが――?
絵本をめくってすぐに登場するのは、あたたかそうなラーメン。
それにつづいて、ナポリタン、シチュー、親子丼。
みずみずしいツヤ……
ほわほわとたちのぼる湯気……
そして、おいしそうにほおばるダダさんの表情……
読んでいるだけで、香りまでただよってきそうなほどリアルなイラストが……うっ、胃袋直撃!
それとは対照的に、ダダさんやお皿たちのキャラクターはかわいらしくデフォルメされていて、そのコントラストも魅力的な絵本です。
くわえておもしろいのは、背景のイラストや食卓にならんだメニューの種類に、ダダさんのリアルな生活が感じられるところ。
なんてったって、パスタだの、フライドポテトだの、ラーメンだのが並んでいたダダさんの食卓に、結婚してはじめて山盛りのサラダが登場するんですから!
それに、実は結婚する前からピピさんの存在を感じる小物があちらこちらに。
語られていないふたりの時間がそうしてイラストに込められているのも、なんだかロマンチック……
さて、自分にはおいしいお料理をもりつけてはもらえないんだと悲しむまめざらちゃんでしたが、ピピさんの登場で、思ってもみなかった自分の役割を知ることに!
まめざらちゃんの表情がコロコロとゆたかに変化するのにあわせて、ラストには心から「よかったねー!」とうれしい気持ちにさせてくれました。
かわいくって、おいしくて――いろいろな楽しみの詰まった、ぜいたくな一冊です!
(堀井拓馬 小説家)
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